誇大妄想 | ナノ




居眠り

ふと読み耽っていた本から顔を上げると、座敷の主がうとうととしていた。しかも───関口の肩に頭を載せて。

「珍しいですね、中禅寺さんが居眠りなんて」
「うん───起こさないでね、本当に珍しいから───」
此方が小声で言うと、関口も小声で囁き返してきた。肩を揺らさないようくすくす笑う。
「中禅寺さんも眠るんですねぇ」
「寝るのは遅いくせに起きるのは早いからね、どうしても」
「鳥口さんがいれば良かったんですけど」
「ああ─そうだね。写真撮って欲しかったな」

こんな分かりやすい甘え方してくる奴じゃないから、と仄かに笑う。その眼差は愛しむようで、優しい。
─────なんだ。

「そんな顔もできるんですね」
思ったままが口をついて出る。
正直意外だった。依存し依存され、互いの存在が重い───と言っていたのに。
そんな穏やかな表情もできるのだ。

「うん───僕はもう、中禅寺なしでは生きていけないから。でもそれって、愛ってことでしょう?」
「そうなのかな─────」
「僕たちの間ではね。どっちにしたって離れられないし───だったら呼称なんてどうだっていいよ。離したくないから、離されたくない───」
関口はちょっとだけ哀しそうな顔をした。

「でもね、こわいよ───人に縋るのは、いつだってこわいんだ───っわ!」
小さな悲鳴と同時に関口が視界から消えた。座卓の向こうに倒れたらしい。

「…関口さん?」
「悪いが帰って貰えるかい、関口が気を失ってしまって」
「う、失ってない!頭をちょっと打っただけだ」
「煩瑣いなぁ少し静かにしろよ目が醒めるだろ」
「いま、今更、ずっと起きて、た、くせに!」
「え?中禅寺さん起きてたんですか?」
「途中で目が醒めたんだよ。君が喋り出す迄は寝ていた」
「此奴は猫が欠伸しても目が醒める地獄耳なんだ」

関口は床から悪口を言うが、中禅寺は素知らぬ振りで関口の喉を擽る。
「そんなものただの杞憂だって、今に思い知らせてやるさ」


─────他人の惚気がこんなウザいだなんて知りたくなかった。
どうやら中禅寺にダシにされたらしいと、気が付くのは退出してから数分後。



Fin.

視点はオリキャラでも井上くんでも。
友人M氏に捧ぐ。
H23.06.22.

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