2016/10/08 03:05 僕は逃げるように立ち上がり、少し深いところへ進む。中禅寺は振り払われた手をぐっと握り、僕を追いかけてくる。 中禅寺の伸ばした手を、すんでのところで躱す。 不意に中禅寺は「ね、泳ごうか」と言った。 「嫌、だ、よ。……ぬ、濡れるじゃないか」 「そう言わずに、さ、これ以上濡れたからって何を気にすることがあるんだね、関口君、ねえ」 甘えるような口調で僕を宥めると、肩を抱く手の力を強め、横向きに倒れた。ばしゃばしゃと飛沫を上げながら砂の上を転がる。 波が中禅寺の頬に当たり、夜光虫が光る。ゆらゆら揺れる淡い光が、水中にさらりと広がった黒髪に絡んで、とても綺麗だ。 「君は宇宙のようだね」 「流石、理系は言うことが違う」 「茶化すなよ。本当に綺麗だ」 「僕から見れば君が宇宙だぜ。君はこの宇宙をすべて背負ってる。頭上に輝くのはアルタイルか、ベガか――」 「て、適当なこと言うな。この時間帯、その角度じゃアルタイルは見えない」 |