memo | ナノ



深海の愛にきみを沈める
2015/09/15 17:29

 自分の身に何が起きたのかうまく把握できていない。なんだかよくわからないがとりあえず生きているらしいことだけは確かだった。死んでいるのなら、こうして中禅寺の体温を感じることもできなかっただろう。
「君が生きていてよかった」と中禅寺が強く抱きしめるほど、何かが醒めていくのを感じた。
 生きていてよかっただって? 無責任なことを言ってくれる。
「ねえ――生きているって、もっと感じさせてよ」
 中禅寺の背中に腕を回して堕落を誘う。中禅寺を相手にそんな真似をする自分に吐き気がした。これで中禅寺が軽蔑してくれたなら上々。もし誘いに乗って彼が堕ちるなら、それはそれで――
(どっちにしたって、僕には都合がいい)
 関口の言葉に面喰ったのか、中禅寺は関口の顔を見つめて呆然としていた。少し悪いことをしたかな、という気になったけれど、こういうことは珍しいことじゃないと関口に教えたのは中禅寺だ。
「ああ――ああ、きみがそれを望むなら」
 苦し気に呻くような声で答えた中禅寺の腕に力がこもる。それが痛いほどで、本当に彼が可哀想だな、と思ってしまった。

 関口の中をぐちゃぐちゃに乱しながら、不意に中禅寺は表情を緩めた。
「ああ――きみ、初めてか。嬉しいな」
「なに、」
「僕も初めてなんだけどさ――」
 だからなんだというのだ。こっちはあつくていたくてしにそうだというのに。
「言わないでおこうと思ってたけど――」
 もうなんでもいいから頭を真っ白にしたかった。
「――きみのことがすきだ」
「あ、……は? あ、ちょっ、ああっ」
 それって今言うことか? 混乱ってレベルじゃないぞ!

「おはよう関口くん。いい朝だね」
 どうして全裸で中禅寺と一緒に寝てるんだっけ? 体もあちこちが痛くて、ああそうだ、昨日なにか――
「僕以外のすべてからきみを守ってあげる」
 だから心配しないで僕のものでいて。
 そう囁く中禅寺の声は、ぞっとするほど冷たい。

2015/04/03



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