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こころない、ゆえに、あいもない
2015/09/15 16:57

 一通りの行為を終えて、私は重い体を褥に横たえたまま窓辺で揺れる紫煙を眺めた。此処での情事は殆ど惰性で続けているようなものだった。
「…寒くないのか」
「寝煙草で小火騒ぎを起こすよりましさ」
 気のない声で答えて、それでもやはり寒いのだろう、京極堂は裸の肩にかけた襦袢を羽織りなおす。
 障子を閉めているとはいえゆらゆらと広がっていく煙では陽の光を遮ることはできない。静かに照らされている情人の素肌と己の四肢が、ひどく後ろめたく感じる。
「きみには、罪悪感とかいうものは無いの」
「それはきみもだろ。関口君。選択する権利はいつだってきみにある。選んでいるのはきみだぜ」
 確かに私はこの関係を終わらせる権利を与えられている。それを行使しないのは私が彼との関係を望んでいるからだ、と京極堂は主張する。しかし私からすれば、最終的な決定権を握っているのはいつだって彼だ。京極堂なのだ。選ぶのは私でも、私は彼の決めた答えを選ぶまで延々とやり直しをさせられている。
「もし僕等のことを知ったらみんなどう思うだろうか。榎さんはともかく、旦那や鳥口君はどんな顔するか……」
「どうでもいいよ、そんなの――」
 本当に京極堂は興味がなさそうだった。私がそんなことを実行するはずが――できるはずがないと知っているのだ。
「きみには心が無いのかも」
 今も昔も、彼を罵倒する言葉はそういった内容が多かったな、と過去を思い返しながら冗談めかして言う。京極堂は煙をゆっくり吐き出しながら私を一瞥し、
「――それこそ、どうでもいいね」
と感情の無い声で呟いた。


15/03/23



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