お題:好きの代わりに… 京極堂の思考がストーカーくさい そう簡単に愛の告白を出来るような性格でも間柄でもない。私と彼は友人でも恋人でもなく、その関係に名前はなかった。否、名付けたくなどなかった。 愛しているのに告げられない。愛しているのに触れられない。愛しているのに、接唇さえ叶わない。 彼と私が愛し合っていることは明白であった。私が彼を見詰めると同じだけの熱をもって彼も私を見詰めた。その瞳の中に揺らめく炎(ほむら)に、幾度己を失いかけたか。美しく犯し難い闇に、幾度囚われたいと願ったか。仮令狂気であったとて、それを罪業と呼べようか? 言葉ほど淡く儚い、それでいて強いものはない。私はよく解っている。だが己の心だからこそ、簡単に口には出来ぬ。言葉にしてしまえば───全てを失いかねぬのだ。 だから私は。 「関口巽君」 「な、何だ急に改まって。気色悪い」 酷い云われ様だ、と苦笑する。慥かにこうしてフルネームに敬称をつけて呼ぶのは、一高の寮に入寮して以来初めてだった。 関口、巽、と彼の名を口の中で咀嚼する。繰り返し。何度も。その度関口が何か云いたげに此方を見た。その頬が微かに赤らんで見えるのは気の所為か。否、彼も気付いているのだ。私が彼の名を呼ぶ理由を。 「関口巽」 ───愛している。 君の名前を愛と読む *120804 |