memo | ナノ



菊を抱きて
2012/07/31 21:43

「関口君、君ときたら、またなのかい」
 布団に潜り込んだままの関口を眺め、中禅寺は大きく溜息を吐く。返答は無い。布団の中で丸まった様子は、外から見ればまるで亀である。
「君の気持ちは多少解らないでもないがね、だからといって毎回逃げていたのでは何も解決しないぜ」
「だ、だって榎さんが!」
 勢いよく布団を跳ね退けた関口を中禅寺の笑みが出迎える。
「はい、起きたね。布団は畳んでおいてやるからさっさと着替えたまえ。今日は連れていくぞ」
 謀ったな、と呻く関口から掛け布団を剥ぎ取り、畳む。
 関口は嫌々ながらも制服に袖を通すが、一番上の釦の穴が無い。掛け違えたかと釦を外し直していると、中禅寺の指が襯衣の前を引っ張った。
「な、何だよ」
「ん?……いや」
 何だよ気味が悪い。と関口は呟き、また下から順に釦を留めていく。中禅寺はその様子を微動だにせず凝乎と見つめている。

 空は高い。
 榎木津との約束をすっぽかし、甘味屋まで行って帰ってくれば、丁度昼飯時になろう。蕨餅か羊羹でも買って、昼飯の後に食べようか。甘味屋で餡蜜を食べるのも悪くはないが、それでは関口が昼飯を食べられなくなる。
 つらつらとそんな思考を巡らせながら、中禅寺は関口の胸元から窓外に目を移した。


*120715



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