中禅寺と関口 *性行為 お題:君と僕の境界線 君と僕は、何一つ似ていやしない。 なのに、君と僕の境界線は、こんなにも曖昧だ。 荒い息を肩口に吹き付けて喘いだ。躰を繋げたまま布団に沈んでいる。絶頂を迎えることよりも、そうすることの方が重要であるような気がしている。 中禅寺の眸の奥に蠢くものから目を逸らして、関口は先からずっと、こうして首筋に鼻先を埋めていた。汗に塗れた肌膚はべたつくが、体臭がより強く嗅覚を刺激する。久し振りに触れ合わせた素肌は焦げたほろ苦い匂いがした。 「少し焼けたんじゃないか」 「そうかい?」 肺病みのような顔をして、中禅寺は関口などよりも随分健康である。先日先輩から教わった煙草も、噴かしただけの関口と比較すれば相当の量を喫んでいるに違いないのに、体力が衰えた様子はない。尤も、互いに体力を発揮するような場は幸いにして無いもので、褥の中でしか推し量ることはできないが。 「何だか珈琲のような匂いがするね」 「喫茶に行ったから、そのときのだろう」 行為の最中の中禅寺が意外に寡黙だと関口が知ったのは、最近のことではない。その頃から既に関口は中禅寺を生きる縁(よすが)にしていた。 「中禅寺」 「何」 「あ、」 中禅寺が上半身を起こして肘をつく。関口の脚の関節が鳴った。 強引に唇を重ね、中禅寺は関口の吐息ごと言葉を奪う。暫く接唇に酔って、繋がっていることさえ忘れた。躰だけでなく心までもが一つになったような。 ───幻想だ。妄想だ。 中禅寺は口接けを解いて関口の眸を覗き込む。関口の双眸はいつも昏い。ぐるりと円を描くように中禅寺が腰を回せば、関口が押し殺した声をあげる。 関口は布団の上に投げ出していた両腕で中禅寺の腰を抱き寄せ、動きを止めた。 「何だよ」 「動かないで……まだ、このままがいい」 躰の快楽より心の安らぎが欲しかった。 繋がっているのは躰だけではないのだと信じたかった。 中禅寺は再び上半身を倒し、また関口に口接ける。微かな水音を立てながら、関口は頭の端でまるで喰われているようだと考えた。 セックスとは食人行為のようなものだ。と中禅寺は云う。食人嗜好(カニバリズム)には様々な意味があるのだと関口に教えたのは中禅寺である。成程、こうして繋がってみれば確かにそう云えないこともない。 関口は生活習慣から思考回路まで中禅寺に影響されている。持って生まれた性質は変わらないが、物事に対する考え方は殆ど中禅寺の受け売りそのままだ。関口には確固たる「自分」は無い。客観的に見て中禅寺は関口より「正しい」と解っているのだ。 重ねた肌膚が熱く火照る。中禅寺がゆっくりと下半身を動かし始め、関口もそれに抗わなかった。ぴったりとつけた上半身はもう離せそうにない。何もかも溶けてしまえる気がした。 ───君と僕と、二人、溶けて融けて、一つになる。 *120428 お題:君と僕の境界線 title by:にやり |