書きたかったピアニスト×歌姫クラスコ




澄んだ水色の歌声が伸びやかに響く。
ああ、世界は彼と居るだけでこんなにも色付くのだ!クラウドはぞくぞくと背筋を震わせた。
スコールはうたう、うたう。その歌声はまさに色の氾濫とも言っても良いかもしれない。
あかいろ、きいろ、だいだい、みどり、あお、むらさき。様々な色が音という形を借りて絵を描く。
それはそれは鮮やかに零れ落ちる色を拾って、彼が織り成す世界に映える修飾をクラウドは見つけ出そうとする。
もう一度スコールがその唄をなぞった時に、ずっとずっと気持ちよく歌えるように。けれど、いつもクラウドは、スコールの性質を表したような、その精緻で大胆な色遣いに、時間を忘れて聴き入ってしまう。
そんなクラウドを見て、スコールは決まって呆れたように溜息をつき、それでも、ほんの少し口端を緩めてくすぐったそうに目を細める。そして、クラウドが色を拾い集め終わって、スコールの描いた絵にほんの少しの修飾を終えるまで、何度も何度も繰り返してその唄をうたうのだ。



クラウドはピアノの椅子に座って、ピアノから少し離れた位置に立つスコールを見上げる。その瞳は、とても鋭利で、触れれば切れてしまいそうなほどに真剣だ。スコールがうたいきり、幾度目かの繰り返しが始まる前。徐にクラウドがピアノに向き直り、鍵盤に手を置く。


たーん、
柔らかいけれどはっきりと、始まりの音が紡がれる。滑らかに白鍵の上を踊る白く長い指。静かな始まり。

ひたり、とクラウドに視線を向けられて、スコールはすう、と大きく息を吸う。そして、幾度目かの唄を空に響かせた。 
唄を聴くだけの観客はいない。クラウドその人のためだけに、スコールはこの唄を作ったのだ。聴いて欲しいのは、一緒にうたいたいのは、傍らで共に同じ絵を描くクラウドただ一人。

クラウドは、はじめてスコールの事を真っ暗で冷たい孤独の中から拾い上げてくれた。色を、ぬくもりを、世界を描く事を、教えてくれた。
クラウドがいてくれたお陰で、スコールの世界は冷たくて暗くて怖いだけではなく、人のぬくもりと優しさと色があることを知った。
だから、今でもスコールの世界は悔しいほどにクラウドの事でいっぱいだ。

スコールが描き出す落ち着いた旋律は天から降る。煌めくピアノがきらきらと輝く星のように彩る。使う手段は違えど、同じ情景をうたうのだ。クラウドはピアノで、スコールは自分の声で。楽しくない訳がない。
自然と綻ぶ顔にも気付かずに、高ぶる心のまま、スコールは凛と通る声を響かせる。重なるピアノも少しづつ、力強く繊細に音を奏でていった。


最後の一音。
室内に残る残響。それが消えてやっと、クラウドはピアノの最後の一音を弾いたその手を降ろした。
汗の伝うその頬は赤らみ、涼しげな色をしたアイスグリーンの瞳は熱を孕み、クラウドはくしゃりと自らの金の前髪をかき乱して、目元を覆った。


「…反則、だ」


クラウドの絞り出した声はスコールに聞こえただろうか。彼の創り出す色に集中していて、聞こえてはいたけれども、意味が取れていなかった歌詞。ピアノを弾きながら聴き取ったその言葉は思いも寄らなかった、熱烈なラブソング。
うっかり動揺のあまり、クラウドが弾いている手を滑らせなかったのが不幸中の幸いだった。

反則だ、顔を覆ったままもう一度呻いたクラウドの薄紅色に染まった耳に、したり顔で笑ったスコールがキスを一つ。そのスコールの顔も仄かに赤い。


「…なぁ、返事は?」


あぁちくしょう。
憎々しげに吐き出したはずの言葉はどうにも幸せを帯びていて。ちくしょう。もう一度、心の中で毒付いたクラウドは、今度はスコールの唇を塞いだ。





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