気付けば、視界いっぱいの白。目が痛くなって一旦瞳を閉じた。ぱしゃり、足元で水音が鳴る。
もう一度、目を開けると女が立っていた。無表情な顔は、無機質な美術品を連想させる。こいつは誰だ、いつの間に近づいてきた、その前にここはどこだ、…そもそも俺は誰だ?
息が詰まる。思い出せ、どこで俺は何をしていた?


「思い出せなくても構いません、召喚の弊害みたいなものですから」


女が心の中を見透かしたように、話しかけてくる。その無機質な声はどこか機械を思わせる不快さだった。


「記憶は戦えば戻ってきます。戦士よ、どうか力を貸してください」
「ふざけるな、俺の居た所に帰せ」
「…出来ません、私にはもうそんな力は残っていません」


人を勝手に呼んでおいて帰せない、だと。


「どういうことだ、ふざけるな!」
「しかし、カオスを倒せば全ての記憶は戻り、貴方の居た世界に還れるでしょう」


勝手に進めるな。ふざけるな。そんな言葉を向けても暖簾に腕押し。女の戯言に付き合う暇はない。神々の戦い?代理戦争?冗談じゃない、勝手に喚ばれて記憶が消えて、だけど記憶が戻るから戦え?それなのに女は戦うことを前提として話を進めていく。
しかし、言うとおりにするしか選択肢がないことも事実。元居た場所に戻れない、自分が誰だかもわからない。戦えと言われて、違和感を持たない自分だけが、確かなものだ。
戦うことを生業にでもしていたのだろうか。


「カオスを倒しなさい、私の戦士たちよ」
「………仕方ない。その依頼、受けよう。…報酬は元の世界への帰還と記憶の返還。期間はカオスとやらを倒すまでだ」


そう、仕方ないのだ。選択肢がそれ以外ない。全て目の前の女に潰された。
自然に出た言葉と、顔の横で指をそろえて相手に手の甲を見せる行為に困惑するが、任務と割り切れば納得いかないこの現状も気にならなくなった。
任務。そう、任務、だ。この気の進まない戦いは任務。

仲間が他にいるらしいが、同行するつもりはさらさらない。俺は俺の好きなように行動するだけだ。他人なんてわずらわしい。
女に背を向けた。これ以上ここにいる義理もない。


手に不思議と慣れた感触。ガンブレードを握って、一歩、戦場へと踏み出した。






(それは最初の記憶)





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