クラA









その柄は本当は冷たいはずなのに、どこか暖かいと感じたんだ。


ビッグブリッジの作戦が終わった後。僕は理由の解らない喪失感に辟易していた。覚えてないのに、そこに何かが、誰かが居たのだ、と確信がもてる喪失感に。
そんな僕を気遣ってくれたのか、みんながイスカを見に行かないかと、誘ってくれた。復興したイスカのバザーにいかないか、と。

作戦の間の自由時間、イスカに向かう。
元々、イスカは商業都市だ。日用品からとても表では扱えないような品物まで多種多様、雑多に扱うという。
小遣い稼ぎと称して、血の気が多い奴らが魔物を倒しつつ向かったから、それなりに時間はかかったものの、日があるうちにイスカには到着した。
宿を決めてから、数人で固まってバザーを物色する。その内に、イスカの町長、アオバに声をかけられた。


「君たちは裏のバザーに興味はないかい」


裏のバザー、という言葉につられたナインに押し切られて、その闇のバザーが広がっている区画にアオバに着いていった。
そこは、その名のとおり、正規では流せないような物品が販売されていて、先のビッグブリッジの戦没者の遺品までもがあった。それを流し見ていたときに、たまたま目に付いたアームガード。
水晶のように硬質な輝きを持ち、無骨であるのにどこか優美さがある。値札を見ると氷剣の柄、とだけ書かれていた。


「なぁ、この柄…」
「おぉ!お目が高い!これはかの氷剣の死神と呼ばれた人物の物だ」


売り子をしていた商人に声をかけると、思いもよらなかった言葉が返ってきた。氷剣の死神。
それは、僕らの隊長だった、と知らされた彼の。先の作戦で英霊になったと、知らされて。なにも覚えていないけれど、酷い隊長だったとケイトは言っていたけれど。
僕はどうしても彼が、彼の遺品が、売り物にされているのは耐えられなかった。


「どうやら、この先の穴に指をはめて使うらしくて、」
「いい、値段は」
「………10万ギルだ。ビタ一文まけないぞ」


その商人の先手を打ったような値段に、歯噛みする。手持ちはあまりなかったからだ。取り置きを頼もうとも思ったが、何せ裏の何でもありなバザーだ。残っている保障はないに等しい。
しかし、僕があまり物に執着しないことを知っているナインやキング、 エイトがギルを貸してくれた。後で返す、と約束し、足りない分を支払う。


「まいどありー」


にやにやと笑いながら氷剣の柄を手渡してきた商人。そのにやけ面を殴りたいと思いつつも、機嫌を損ねて更に吹っかけられるのも面白くない。
すんでの所でその衝動をやり過ごし、柄を受け取った。
 氷剣という名に相応しく、酷く冷たいと感じている筈なのに、なぜかどこか暖かく感じて、


「おい、」


僕の視界が滲んだのを認識するのと、キングが声をかけてきたのがほぼ同時。
ぎょっと目を見開いた商人に殴りかかろうとしたナインも、それを止めようとしたエイトも、滲む視界でぼやけていた。必死でこらえようとするも、零れる涙は止まらない。ついに、みっともなく嗚咽まで零れる始末。

キングが俯いた僕の頭をくしゃりと撫でた。
もっと大きくて、不器用で、それでも優しい手が同じように撫でてくれた事があった気がする。

心配そうな三人の顔が覗き込んでくる。
違う、違うんだよ。
悲しくて泣いてるんじゃないんだ。安心したんだ、嬉しかったんだ。
胸の空白が埋まった事に。その理由が少しでもわかったことに。
嗚咽で忙しい僕の口は、その言葉を言えなかったけど。


「(おかえりなさい、)」


おかえりなさい、僕の恋。












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