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緩やかに手の先から温度を奪っていく、水。けれど、俺には何よりも変え難い味方だった。
ごぽり、
呼気が水面にむかって揺らめきながら昇っていく。その行く先は、空気に弾けて消えるだけだと知っていたから、視線を逸らした。
静けさ。生ぬるく身体を包む感触。胎児のように丸めた身体。
喜びはないけれど、代わりに哀しみもない、世界。母の胎内にいた頃はこんな世界に生きていたのだろうか。
目を閉じる。ほんの少しの安堵。瞼の裏の記憶はノイズ混じりに掠れて。
もう、哀しませなくて済む。もう、哀しまなくて済む。
…本当に?
泡沫に夢を見ていた。
ぬるま湯のように、幸せで。刺すように恐怖が。困惑が。幸せが。そして、
泣き顔。
初めて守りたいと思った、心底悔しかった。あの子の悲壮な決意。俺の存在意義。
夢に見られていた。
役目が終わったら、ぱちん。弾ける泡。それが俺で、本当は存在していないから、捨てるのは簡単。
けれど、本当は。本当は。
*
纏まらない