Thank you ある夜、突然僕の部屋に尋ねて来た。こいつは無防備に男子寮をパジャマ姿で枕ひとつだけ持っていた。 「怖い夢見ちゃって……一緒に寝てほしいなーと」 「そんな理由でここまで来たのか?そんな恰好で?他の女子の部屋に行けばすむだろう?」 よくこんな恰好でNPCに見つからなかったものだ。 僕が言うとこいつは枕を抱きしめて俯いた。 「……安心できるの直井くんだけだから」 「なんの安心なんだ?この僕が愚民と同じ布団で寝るわけないだろう。僕は神だぞ?それと危機感を持て」 「危機感?なんの?」 至極不思議そうに疑問符を浮かべて答えたから僕は呆れた。 「……阿呆か貴様は」 本気で言っているのか?……僕は男に見られて無いのかと心配になるな。まったく。 「阿呆じゃないし!一緒に同じベッドで寝るだなんて言ってないよ……それでも、いいけど」 「……ふん、寝たければ床で寝るんだな」 仕方なしに部屋に入れてやればこいつははしゃいで跳ね出した。うるさい今何時だと思ってるんだ。 「いいの?わあい!直井くんの部屋〜!」 「遊ぶなよ。すぐに寝るからな……というか貴様は着替えくらい持ってこい」 「は、忘れてた!部屋にいるのすら怖くてダッシュで来たから」 なんで僕の部屋に来たんだかますますわからん。女子の部屋ならすぐ戻れるのによりにもよって男子寮とかこいつ馬鹿だ。 「阿呆すぎて話にならないな」 戻れと言って部屋に入れなければ良いのだが、時間はすでに消灯時間を過ぎていて玄関も施錠されている。 今日だけなのだから他に見つからずにすればいいだろう。 寝る準備をしてふと思った。この世界に来たばかりの頃、同居NPC以来だ、部屋に僕以外がいるのは。 「じゃあ寝るぞ。これは貴様の毛布だ」 予備の毛布を渡して僕は自分のベッドに潜り込んだ。明日も学校だから寝なければ。愚民がいるせいで寝れるかわからないが、まあ大丈夫だろう……。 「直井くんのベッドに入れてくれないの?」 「……っ阿呆か!!貴様が入ると狭い!無理だ!」 神は愚民と同じ布団に寝ないと言ったはずなんだがな。というか一緒に寝たら眠れなくなる……! 「えーっ!女の子を固い床に毛布一枚で寝かすのか直井くんは……」 知るか。といいたい。女愚民より神の方が身分は上だ。しかしいい加減眠いんだ。考えた末、僕は譲ることにした。 「……仕方ないな、ベッドは譲るから、大人しく……」 「それじゃダメだよ!怖くて寝れない!直井くん抱きしめて!!」 「はぁ?!うわぁっ貴様……!」 ベッドから出ようとした僕に覆いかぶさり、背中に腕を回され密着状態になった。シャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。 僕の胸に顔を押し付けて、はあ、と息を吐いたのがわかった。死んでいるはずなのに心臓がドキドキする。 「……はあ、安心する」 「は、離れろっ!」 「おやすみー……」 「おい!……寝たのか……っ!」 僕にしがみついたまま寝てしまったようだ。くそ……こいつが邪魔で僕が寝れないじゃないか。……女に抱き着かれて眠れないとか、じゃないんだ、断じて。 「……散々だ……」 抱き着かれたまま布団をひっぱって戻したあと、彼女の背中に腕を回して目をつぶった。 案の定、眠れなくて朝まで同じ状態にされたからこいつに麻婆豆腐を食わせてやる。絶対にだ。 2011/08/28 公開 |