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最近三国さんが女の人を連れて部活に来ていた。詳しいことは知らないけれど、もしかしたら三国さんの彼女かもって浜野と一度話したことはある。近くでちゃんと見たことはないけど、三国さんと楽しそうにしゃべっていた。「あーいいなぁ俺も三国さんみたいに彼女ほしいしー」横で口を尖らせ浜野が呟く。そう簡単に彼女ができたら誰も苦労しないっつの。心の中で小さく悪態を吐いた。

「狩屋!ちょっと来てくれ」

一年の狩屋が三国さんに呼ばれていた。何だ何だ、怒られるのか?不思議に思う気持ちに負けて様子を見に行く。と言っても、神童も霧野もいる。要はみんな気になるってことだろ、俺だけじゃないって!話し声はよく聞こえない。だけど、三国さんのとなりにいた例の彼女が、いきなり狩屋に抱きついた。

「はぁ?!」

俺も神童も、霧野も、同時にそう大声をあげてしまった。当たり前だ。だって三国さんの彼女がいきなり狩屋に抱きついたんだから。「あれ、お前たち来ていたのか」ちっ、ばれたよクソ。何も言えずに目を背けたけれど、神童は堂々としていた。こいつ流石だわ。

「あの、三国さん。そこの人と……狩屋で、何をしていたんですか?」
「離れろよー!」
「マサキくんの部活姿を見に来たのに、冷たい」
「……あー、うん。説明するよ」


×××


説明はとても簡単だった。まさかこんな単純な話にこそこそとしていたのだと思うと少し恥ずかしくもなってくる。あの女の人は、三国さんの彼女ではなかった。むしろただのクラスメイトらしく、全くそういう雰囲気はないらしい。なら紛らわしい姿を見せつけないでほしかった。名字名前は三国さんのクラスメイトで狩屋の姉。そんな事実今聞かされたって、知らねぇし!

「つか名字違うし」
「マサキくんとは小さい時からずっと一緒だったの、もう姉弟同然です!」
「頼むから姉ちゃん黙ってて」
「ほら、今姉ちゃんって呼ばれたしね!」

この精神年齢低そうな奴が自分より年上とか信じたくなかった。だけど、信じなくちゃいけないんだよなぁ……年上と分かった途端、礼儀やら何やらを大切にする神童はもう敬語を駆使していた。ほんと、流石だわ。


×××


それからあの女が部活に堂々と訪れるようになった。練習中、形振り構わず大声で「マサキくーん、がんばってー!」と叫びだす。それを聞いて赤くなった狩屋が全速力であの女のもとへ行き、文句のひとつ二つを言ってくる。これが最近部活中に起こる出来事、日課になってきた。周りの奴らはみんな、見て見ぬふりをする。それをする他仕方ない気がした。だって他人事のように言えば、あれは姉と弟の問題ってやつなんだから。
だから、いつでも元気のいいあの女が暗い顔して蹲っているのを見たとき、多分かなり焦ったんだと思う。自分でもどこから出たのか分からない切羽詰まった声で問う。「どうしたんだよ、大丈夫か?!」そこには敬語なんてもちろん存在しなかった。

「あ、えっと君は……倉間くん、だったっけ?」
「調子悪いのか?」
「ううん、違うよ。ただちょっとねー、うん。わたしにも色々悩んでることだってあるの」

誰も聞いてないのに、奴は勝手に話し始めた。きっと、誰かに聞いてほしかったんだ。と思う。分からないけど、知らないけれど。でも今日だけは冷たい目で見るのはやめにしてやった。こいつがかわいそうに思えたからだ。

「マサキくん、どう?」
「いつも通り」
「そっか、心配しすぎたのかな。これ以上鬱陶しく思われるの怖いから、もう見に来るの止めようかな」
「……別にそんなこと、気にしなくてもいんじゃね?」

何を自分でも言っているんだろう。こいつが毎回来ることを少しは鬱陶しいと思っていた俺が、何を言っているんだろう。否定はしなかった、だからこの女がかわいそうに見えたんだって、仕方ないだろ。俺だってそのくらいの気遣いはしてやれる。

「ありがとう、倉間くん。きみはやさしいね」

ふわりと笑った名字の柔らかな表情を、俺は忘れたくないと思った。さぁ何でだろう。



/徠々さん
狩屋姉と倉間くん



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