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名簿の関係上、狩屋とはよく一緒に日直の仕事をする。……と言っても、殆どわたし一人がやっているようなものだ。狩屋に頼んでいることといえば、日誌の最後に書く担当者の感想の部分だけ。日直の仕事である黒板を消すことも、移動教室の際にカギを閉めることも、いつも一人でこなしている気がする。別に今更それをどうこうとは思わない。やらないなら、やらなくていい。わたしは狩屋に強制してまでやって欲しいとは思わない。どうせ「これどうすんのー」と聞くだけで、何の役にも立たないんだから。もう彼に期待するのは止めた。
今日も、何回かぶりに日直の仕事がやってくる。朝早く学校へ登校し、職員室から日直日誌を持ち出そうとすると……定位置に置かれているはずのそれは、なかった。もしかして、級長が持っていってくれたのだろうか。まぁ、余計な仕事が省けただけ良かったと思おう。
教室へ行くと、教卓の上に日誌が置いてあった。やっぱり、級長だったのかな。そう思って教室をぐるりと見渡してみるけれど、その姿が見当たらない。まだ早いこの時刻、人が多くて級長の姿が分からないと言うことはないはずなのに。――その代わり、信じられない人物が目に映った。狩屋だ。

「狩屋、もしかして……日直日誌持ってきた?」
「おはよー名字さん。挨拶ぐらいしようぜ」
「あ、うんごめん。おはよう。それで、これ、狩屋が持ってきたの?」
「そうだけど」
「………」

言葉が出ないとは、このことだろうか。多分、信じられないからこんなことが起こるんだ。狩屋が、初めて、日直の仕事をやった……?まさかとは思ったけど、今日はどうしたんだろう。もしかして、熱でも……いや、流石にそれは失礼か。折角狩屋が自発的にやろうとしてくれたんだから、それってわたしの負担が少し少なくなると言うことで、喜ぶべきことなんだ。
だけど、素直に喜べなかったのはなんでだろう。わたしってそんなに物わかり悪かったっけ。


〜〜〜


その日はどうしたんだろう。やっぱり狩屋の行動がわたしには信じられなかった。毎時間授業が終わると立ち上がり黒板を消す。移動教室の際にカギを閉めることを忘れず、最後まで待っている。やっぱり、今日の狩屋はおかしい。もしかして、何か企んでたりするのかも……。ときどきちらっと見せる含みある笑みを、見逃したことはなかった。もしそうなら、その相手とは誰なのか、何を要求するのか、ちゃんと見ておこう。いざとなったら、その子をわたしが助けてあげなきゃ。

そういえば、ときどき狩屋がわたしを見て、得意そうに笑っていたのは、何だったんだろうか。


〜〜〜


「名字、今日教室のゴミ袋、捨てて置いてくれないか?」
「え、はい。分かりました」

放課後、最後の黒板消しを行っている最中だった。先生が、わたしの肩をとんとん、と叩くと少し大きなゴミ袋を差し出している。そういえば今日はゴミ収集を行うとか何とか放送で言ってたっけ。受け取ったそれは少し重かったけど、多分わたし一人で大丈夫だ。先生も「黒板は狩屋に任しておけば大丈夫だろ。あいつ今日はよく仕事したなぁ」と言っているし。だけど、やっぱり、先生から見ても狩屋は今日よく仕事しているんだ。……どんな意図なのか、わたしはまだ分からないままでいる。
このままじゃいけない。

どうかわたしがゴミを捨てに行ってる間に狩屋が帰ってしまわぬよう祈り、走っていった。教室に戻ってくる頃には生徒は殆どいなくて、……ううん、全然いなかった。遅かった。狩屋がまだ黒板消しをしてくれているなら、今日どうして真面目に仕事をしたのか聞き出してやったのに……流石にそこまで時間はかからないか。

「あ、名字帰ってきた。日直日誌の感想の部分早く書いてよ」
「……え、狩屋?何で、いるの」
「だってまだお前が書いてないじゃん、これ」
「あ、そうだね。今書くよ」

狩屋がまだ教室に残っていたことも驚いたけど、もっと驚いたのは日誌の感想部分に丁寧な文字で文が書かれていたことだ。すごい、狩屋もやればできるんだ。……ちょっと失礼かな。でも、今までの行動から見たら、やっぱりすごい。

「狩屋、今日真面目に仕事してくれたね」
「まぁ俺もやればできるんだよ」
「……どうして?」
「どうしてって、いつも名字に苦労させて悪かったーと俺なりに考えたんですよ」
「わたし別に一人でもできるし」
「うわ、かわいくない。そこは素直に喜ぶべきだよ」

文字を走らせ、それを窓辺に立っている狩屋に突きだした。「じゃあ後これ、職員室まで持っていってね」……確かに、かわいくなかったかも知れない。自分でもちょっと、愛想ないなぁって思った。でもそれを、狩屋に指摘されたくはない。
あとカーテンちゃんと纏めて帰ってね、吐き捨てるように言うと、教室から出ようとする。今日頑張ってくれたと思ったのに、何処かがっかりしてる。もういい、諦めの気持ちがわたしを覆う。そんなとき、「おい待てよ」狩屋から声がかかって、瞬間引き寄せられた。

「…っ、な、何、」
「ほんとかわいくねぇ。お前のためにも頑張ったんですけど」
「わたし、その上から目線いや」
「うっせ」

ふわり、何処となく触れたのは唇だった。何、これ。どういうこと。思考回路を遮られたように、頭が回らない。そっと離された後は、沈黙が残っただけだった。小さく小さく、か細い声で狩屋が呟く。「俺、名字のこと好きなんだけど」何それ、意味分かんない。何も返せないわたしに、少しして狩屋が笑いかけた。わたしが時折見る、何か企んだような笑みだった。

「嘘だって、冗談冗談ー」







 裏




 し




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