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数学の教科書忘れたから、名字貸してくれん?知り合い程度の彼の言葉に乗せられ、素直に教科書を貸したのが間違いだったのだろうか。返ってきたのは教科書という形をしていた物体。事情を聞いてみれば、昼放課の時間にうっかりお茶をこぼしてしまったとか…しかも当の本人、浜野が口走ったのは「何か奢るから許して!」なんて。教科書を弁償するという選択肢はないらしく、少し腹が立ったのは言うまでもない。それでもその条件で許すことを決めたのは、わたしが甘いせいなのか。ともあれ、人に何かを奢ってもらえるというのは気持ちがいい。


「でさ、何奢ってくれるの?」
「そりゃ、名字の好きなもの。…あ、あそこの自動販売機で何か買っていい?」
「どーぞお好きなように」


帰り道の途中にある自動販売機は、わたしもよく使うものだった。お母さんがわたしに持たしてくれるお茶の量じゃ、足りない。そのせいで日に日に少なくなっていくのはお小遣いというのも真実。だから人に奢ってもらうのは嬉しい。


「あ、名字も何か飲む?」
「…もしかして浜野、教科書の件をジュース一本でチャラにする気じゃないよね?」
「あちゃーバレたー」
「本当だったの…?わたし、ジュースじゃなくて甘いものが食べたいな」


え、それは何。パフェとかそういう高いものを奢れってことですか。浜野の顔が少しだけ強ばるのを見て、面白くて笑った。わたしはそこまで強欲じゃない。甘いものが食べたいなんて、正直板チョコ1枚でもいい。とりあえず、甘いもの。
でもそれじゃあジュース一本より安くない?板チョコ1枚でいいなら、俺ホントそっちにしちゃうよ。確かめるように言うけど、わたしは何度も言える。それでいい、と。だって浜野に奢ってもらえるって、それだけでいいじゃないですか。それに、板チョコ1枚でも人は幸せになれると信じてる。



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