(佐伯と夢主)



若くて、外国人で、自称超能力者だ。
まぁ胡散臭さを感じるなと言う方が無理な話だ。何度も思ったことをまた思った。若いのだけは時と共に解決される、しかしあとの二つは人生に永遠につきまとう。人に信頼されるまでの時間を徒に延ばす。具体的に何か不快な思いをするより、そんな漠然とした諦念の方が時々ひどく胸を塞がせる。怒りや失望のような激しさではなく、ひたすらに途方に暮れさせられる。

シャワールームに続く洗面所のドアノブを捻った。脱衣カゴから何か持ち上げた姿勢の彼女と、目が合った。はだいろ……と思った。上下、下着を身に付けたのみの彼女の口が、丸く悲鳴の形に開いていくのが妙にスローに見えた。


「すみませんごめんなさい本当に申し訳ありません」

「か、か、帰ってたんだ、おかえり、」


私あの、シーツ洗ってて、洗面器でやったから、水すごい跳ね上げちゃって、愛さんも混乱しているらしくこうなった経緯を話してくれる。いやそれはいい、今それはどうでもいい、自分の靴の爪先を見つめる、見慣れた飴色で、妙にまざまざと記憶に刻まれてしまった、彼女の下着の細部を、水色のレースの花を上書きしようと努める。


「か、替えの服、あるんですか」

「あ、うん、水で濡れただけだから、ドライヤーしてもらった……だいじょぶ」

「ああ、ならまぁ……カギ、閉めて下さいね」


考え事をしていたし俺が力業で開けた可能性もある、というかそれが濃厚、と思ったが彼女は、はい、うん、と生真面目に頷いた。頷いて上げた顔はまだ眼前にあった。ずっとノブを握って閉める動作をしているのに、反対側から引っ張られ続けているドアは動かない。


「閉め……たいんですけど……」


というか俺より彼女の方が閉めたいと思う。普通男ならずっと見てたい。俺も知り合いでなければ見たかった。多分。いやいや。


「離して下さい、手ェ詰めますよ」

「そう、だから、シーツ洗ったから」


それはもう聞いた。彼女はもどかしげに唇をウニウニさせて、俯いて、意を決したように顔を上げた。身体を見まいと視線を上に固定していたので、彼女の百面相をずっと見ていた。


「今日はたくさん寝たらいいと思うよ」


ドアが閉まった。意を決したにしては言うことが普通すぎる、と思った。下着姿見られてんのに第一声で「おかえり」もないよな、とも思った。
自分は一体どんな顔をしていたのだろう。と最後に思った。
若くて、外国人で、自称超能力者だ。それは変えられない。それを特別視しない場所を、探すこともできない。時間をかけても、深く信頼してくれる人間を一人ずつ見つけて離さないようにするしかなくて、それをもう自分は見つけ始めている。



「叩かれたのかと思うくらい頬赤いね」

「……なんか……好きになるかと思った」

「……え? 貧乳フェチとかそういうこと?」

「神崎さん意外にも最低ですね」




89.焼き付ける

小ネタのつもりで書き始めたのに長くなって昇格しました。基準:地の文の量

ラッキースケベ/逆ラッキースケベをやりたいがために脱衣所はゴリラパワーで開けられてしまう設定になっている。佐伯も中山に何度もパンツを見られている。

「佐伯君結構派手なパンツ履いてるのね……」

「……早く閉めて下さいね……」

的な。

20171029
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