「ああ、そうだ。手当て、しなくちゃね?」


「え?あ、べ、別に大丈夫です…」


「何言ってるの?ちゃんと消毒しなくちゃダメだよ。傷、残したくないでしょ?」


「う、あ、いや。別に傷が残って困る身体でもないんで…」


「いいから、じっとしててね?」


…ペロッ



「………は?」


頬に…生暖かい感触。



「あと、腕…だったっけ?」


「…いやいやいやいや!ななな、何やってるんだすか!」


「…っあはは!だすかって…絵美ちゃん面白すぎだよ!」


「……///」


「そんなに嫌がらなくてもいいのに。消毒してあげただけじゃない」


「いいいいや、そんなんで消毒するくらいならこのままでいいです」


「あれ?絵美ちゃん。顔、赤いね?どうしたのかな?…もしかして、照れてるの?」


「っ―!///」


「ほら、腕も見せてごらん?」


「けっ、結構です!」


「遠慮しなくていいんだよ?」


「遠慮じゃありません!」


…沖田さんは本当に楽しそうだった。年上の人になんだけど…すごく可愛い。でっかい猫がじゃれついてるみたい。ウチが断固拒否すればさすがの沖田さんも諦めたらしく、「すぐ戻ってくるからね」と言い残し部屋から出て行った。言葉のとおり、少ししたら障子戸が開けられた。



「お待たせ」


「腕出して?…ああ、もう舐めないから安心して?」


「………」


「いい子だね。…少し滲みるよ」


「…いっ!」


沖田さんはウチの腕を取ると、塗り薬みたいなものを傷口に塗りつけた。…めちゃくちゃ痛い!



「…ごめんね、痛いよね。滲みると思うけど、少し我慢してね」


「っ……」



――そっか。さっき出て行ったのはコレのためだっんだ。…わざわざ、取りに行ってくれたんだ。ちょっと嬉しくて、傷口から目を反らしながら必死に痛みに耐えた。



「…終わったよ。よく頑張ったね」


「…///」


そう言いながら頭を撫でられた。嬉しいけどちょっと恥ずかしい。



「これで腐り落ちる心配はなくなったね」


「あの、恐ろしいこと言わないでもらえませんか…」


「何言ってるの?怪我は甘くみると怖いんだよ」



「………」


「どうしたの?…傷が、痛む?」


「あ、いえ。そういうわけじゃ…」


「なら、どうしたの?」


「…その」


「沖田さんがせっかく…助けてくれて、生きる気にさせてくれたのに。……やっぱり、不安で…」


「不安なのは仕方ないよ。誰だって、いきなり知らない世界に放り込まれたら、気丈ではいられないよ」


「私…ここで、どうやって生きていけばいいのか……わからない」


「生きながら考えればいいよ。ここで、ゆっくり考えればいい」


「ゆっくり……私に、そんな時間なんてないじゃないですか。いつ…殺されるか、わからないのに…」


「…大丈夫だよ。見たかどうかもはっきりしないような子を、斬ったりしないから。僕がわざと、曖昧な情報を伝えたしね」


「でも、私…この時代のこと、何も知らない。元々、家事もできなかったし……きっと何もできない」


「ここでのことは、生きてるうちに覚えられるよ。特別頑張る必要なんてないしね」


「それに……男の人、苦手だし。一緒に住むなんて考えられない…」


「あれ、そうなの?僕とは普通に話してるじゃない」


「…話すのもダメとかじゃないんですけど、やっぱり苦手で…」


「それは我慢してもらうしかないなあ。ここ、男所帯だし。そのうち慣れると思うけど」


「でも…私……」


…やっぱり、不安で仕方ない。先を考えれば考えるほど、不安に押し潰されそうになる。…本当は帰りたい。元の世界に帰りたい。でもそれはきっと…無理だから。だから生きるなら、ここしかない。



「安心していいよ。君がもし本当に生きるのを諦めて、もう一度死を望むことがあったなら…。――僕が、殺してあげる」


「――え」


「僕が君を、殺してあげる」



――ああ、これは本気の言葉だな。…なんとなくそう思った。



「だから、ね?もう少し頑張ってみなよ」


「――ありがとうございます」


「…ここでお礼だなんて、やっぱり君 変わってるよね」


「よく…言われますね」


「…あはは!言われちゃうんだ」


「まあ、どうせ立ち止まることはできないんだ。だったら、前に進みながら ゆっくり考えればいいじゃない」


「…沖田さん」


「ん、なあに?」


「…少しだけ、楽になった気がします」


「そう?よかったね」




この先に、希望があるかなんてわからない。でも、あなたがくれた約束は、確かに私の希望でした。








あなたがくれた約束


もう少し、頑張ってみよう…

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