「……」
「……」
――…かったりー授業も終わって待ちに待った部活が始まる。学校なんてこのために来てるようなもんだな。つーか勉強なんていらねーっての。何が楽しくて一日中席でじっとして眠くなる話聞かなきゃなんねーんだよ。身体動かした方がよっぽどいいだろ。
…まあそれはさておき。今日も赤司の号令でそれなりにハードなメニューをこなす。あー…テツの奴、またぶっ倒れてんな。アイツ体力ねーから。赤司も容赦ねーし。
部活も終わって他の奴はぞろぞろと体育館を出て行くが、オレ達の練習は続く。元々部活後に自主練入んのは珍しくなかったが、“コイツ”が来てからは毎日のように残るようになった。
…まあ、またこうやって残るようになったのもコイツのおかげなんだけどな。…で、それはいーんだけどよ…
「…んだよ、ジロジロ見て」
「…青峰、手おっきいね」
「……あ゛?」
さっきからずっと送られてた視線。絵美はでっけー目でずっとオレを見てる。…つーかホントコイツ目デケ ーな。…じゃなくて、なんでかジロジロこっちを見てた絵美に話しかけてみりゃ、ワケわかんねーことを言ってきた。
「んだよ、それ…」
「青峰、よくそんな簡単にボール持てるよね」
「あー…別にフツーだろ、こんなん」
「普通じゃないですー。バスケットボールは持つの大変なんですー」
「お前の手がちっせーだけだろそれ」
絵美はよくオレ達を見てる。自分は運動神経がないからっつって、オレ達のプレイを見ては目を輝かせてる。…まあなんつーか、悪い気分はしねーっつーか、コイツのこの純粋なとこに救われたっつーか……あー…で、今度は何見てたかと思ったらオレの手がデカいとかなんとか。…別にフツーだろ。って言ったら口尖らせて文句言ってるけどな。
「ちっさくないよ、私は平均くらいだよ」
「嘘つけ。そんなちっせー手してるくせに。だからドリブルもできないんだっつーの」
「…それは運動神経ないだけだもん」
「別にんなこと言ってねーだろ」
…絵美はニブい。自分でも言ってっけどマジでニブい。頭でわかってても身体がついて行かねーっつーの?オレとは正反対のタイプだ。オレは考えなくても身体が勝手に動く。ごちゃごちゃ考える方がめんどくせー。
…少し前までは、できない奴の気持ちなんて考えたこともなかった。できない奴は目に入んねーし、できる奴がいりゃ楽しい、そんくらいだ。そんで最後は、できない奴に腹が立つようになった。弱い奴が悪いってな。
…けど、オレが今まで当たり前に思ってたことを、当たり前のように口にして、傷つけて、初めて知ったできない奴の気持ち。オレが今まで見向きもせず、踏みにじってきた奴らにも、きっとそんな思いをした奴が大勢いるんだろう。今さら、どうしようもねーけどな。
…けど、まあ今は弱い奴をバカにするつもりもねーし、少なくともこれからは、コイツを泣かせなくて済むくらいには、ちょっとは考えてみようと思った。この、劣等感の塊みてーなコイツのために。
「だから、お前じゃ背も低いしバスケ向いてねーんだって」
「……」
「…私だってみんなとバスケしたいもん」
「あー…別にやるのは止めねーって。向いてねーってだけでプロになるワケでもねーんだから、それなりにできりゃ十分だろ」
「…うん」
「ほら、ドリブル教えてやっから、こっち来い」
「…青峰、手出して」
「は?」
「だから 手」
「手って…こうかよ」
…ピタッ
「…っ」
「わー…!青峰、やっぱ手おっきいね」
「…青峰?」
「……」
「あーおみねっ、どしたの?」
「…うっせ」
言われるがまま重ねた手は、思った以上に小さくて、華奢で、驚いた。…女って、こんな弱々しいもんだったんだな。少し力入れりゃ、簡単に折れちまいそうだ。…ホント、なんだよこれ。しかも柔らけーし。つーかこんな手でバスケすんのかよ。
あー…黄瀬の奴が護ってやりたいだのなんだの喚いてたけど…わかった気がした。護ってやりたい、か…
キミが教えてくれた“ハジメテ”「ていうか青峰くろっ」
「…うっせーよ」
*****
バカみたいにバスケが好きで、
まっすぐにバスケに取り組んでたから、
自分のバスケを否定されたのがショックで、
受け入れられないのは、楽しくなくなったのは、弱い奴が悪いんだ、と。
バスケバカなキミが好きです。