小説 | ナノ
僕は素直じゃない。
口を開けば反対言葉。
だから僕は、そんな自分が嫌い。
時の流れというものは身勝手だとつくづく思う。
早く過ぎてほしくても、ゆっくりしてほしくても時間は変わらない。
残酷だなあ、なんて。
当たり前のことなんだけど。
まあ、そんなことを考えていたんだけども、僕の隣で泣きじゃくる一年生の嗚咽で考えるのを止める。
中在家先輩の袖にしがみついてわあわあ泣くきり丸と怪士丸。
黙って宥める中在家先輩。
目を真っ赤にしてる不破先輩。
そして、それをただ見てるだけの僕。
そうだ今日は先輩がこの学び舎を出る日か。
とか思ってみるけど、知ってた。
来ないでって思った。
やっぱり時間は残酷だなあ。
「久作…」
「っ、はい。」
「しっかり支えてやれ。」
「はい。」
僕は平気。そんな感じでいつもの顔して返事する。
そりゃまあ素直に泣いて先輩に抱き締めてもらいたいのもちょっとだけならあるんだ。
嘘、本当はすごく思ってる。
でも一年生の前でそんなみっともない真似できない。
あーあ、違うな。
わかってるんだ、全部。
先輩がこの門をくぐって見えなくなったら涙がどんどん出てくることも。
不破先輩に差し出される手も、後輩にかけられた言葉も振り切って部屋に閉じこもって、
本棚にもたれ掛かって1人でみっともなく泣くこと、わかってる。
わざと大きな声出して、中在家先輩に聞こえないかななんて思って、泣いて、枯れて。
皆にどうしたのなんて聞かれても無視するんだ。
だから、
そうなる前に、
ちょっとだけ素直になれたら。
「おいで久作。」
「え…」
「私が抱擁したいんだ。」
「あ、っと、」
「…」
「僕よりきり丸達を。」
「…わかった。」
そんな簡単になれるわけないみたいだ。
先輩は僕の頭に手を置いてから、2人の元へ行った。
あーあ、あーあ、
やっぱり僕は僕が嫌いだ。
ゐたかったのはそこじゃないけど
((素直になれない僕はそこで立ち尽くすしかないんです。))