小説 | ナノ




いつだってその背中を追いかけていた。だけど僕の視界に七松先輩が留まっているのは一瞬で、先輩は風のように消え去ってしまう。それは僕と先輩の力量をはっきりと示していて、一年生の僕が先輩に追いつけるわけがないことぐらい分かってはいたけれどなんだかとても悔しかった。脚に力をこめ、地面を蹴り上げる。走って走って、走ったその先にいる大きなその背に僕はいつか追いついてみたかった。たとえ、それが無謀だとしても。



「それじゃ、私は行くか」
そう言うと先輩は軽く屈伸をした。まるで今からマラソンに行くような気軽さに、僕も体を動かそうとしてしまう。咎めるように、だけど優しく滝夜叉丸先輩が僕の名前を呼んだ。次屋先輩が自分も泣いているくせに、僕を泣き虫だと言ってくる。時友先輩がしんべヱみたいにずずっと鼻水を啜った。七松先輩が、そんな僕らを見て笑う。その笑顔に胸の奥がきゅうと切なくなって、僕はとうとう涙を止めることができなくなった。ずっと追いかけていたのだ。その大きな背を。人を惹きつける力がこの先輩にはあって、僕はあっという間に惹かれていった。追うことしかできなかった。きっと僕は、これからも先輩を追い続けていくんだろう。
「ななまつせんぱい、」
先輩の名前を呼んだけれど、うまく声にならない。ぐしゃぐしゃといつものように頭をかき回す大好きな手が僕の頭にのることはなかった。七松先輩が歩き出す。その背は一瞬では消えず、僕の視界の中にある。追いつける距離だというのに、僕の脚は地面に貼り付いたまま一歩も動かなかった。




title:目で追う、けれども、脚は動かなかった



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