小説 | ナノ






六年生だった先輩方が卒業した。そうしたら、私の委員会に六年生の先輩が居ないから、私は委員会で一番年上になってしまった。完璧な私は委員長代理として、きちんとしたいと思うのに、いざ委員会の時間になると低学年の後輩達を目の前に、何をしたらいいか分からない。あの暴君だった先輩はどうしていただろう。

「なぁ、七松先輩ってどんな事してたか覚えてるか?」

「はぁ?そんなのお前より僕が覚えてる訳ないじゃないか。僕は七松先輩と同じ委員会じゃなかったんだから。それより、潮江先輩ってどんな事して低学年を纏めていたか覚えてるか?」

「なんだよ、お前だって同じ事聞いてるじゃないか。お前に分からないなら、私に分かるはずがないだろう」

そう言い合う私達の上には、何もなかった木々に桜が咲いて、全てが新しい季節に向かっているのに、居なくなった背中が大きすぎて、取り残された私達は、急に行くべき道を見失い立ち止まってしまっていた。

「こんなに、委員会が大変だったなんて知らなかったよなぁ…僕達」

「…あぁ、確かにな。私達四年生は、ずっと先輩方の後ろを付いて行っていただけだったという事だ」

だらし無くて、たまに何か言うかと思ったら暴君で、仕方がないだけの先輩だと思っていたのに、いざ居なくなってみると、その先輩がやっていた方法を必死に思い出そうとするけれど、きちんと見ていなかったから詳しくは思い出せなくて、上手くいかない。

「はぁー…。なぁ、僕さ、卒業式の時に潮江先輩から潮江先輩らしくない事を言われたんだけど、今ならその意味が分かる気がするよ」

「…奇遇だな、私もだ。門を潜る前の七松先輩にらしくない事を言われた。言われた時は最後の最後に、また何でそんな訳の分からない事をと思ったけれど、今なら何でそんな事を言ったのか分かる気がする」

桜が咲く前の、まだ寒かった冬の終わりの日。いつものように、またすぐ帰ってくるような気軽さで学園を去っていこうとしていたのに、門を潜る直前で戻ってきてまで、忘れる所だったと残してくださった言葉を、未熟な私は、すぐに理解出来なかったけれど、先輩…、今なら、少しぐらいその言葉を分かった分かる気がします。

「私なんかより、自分を好きになれ…か」

「何だよ、お前もそう言われたのか?僕も潮江先輩にそれらしい事を言われたけど」

「もー、二人とも二人だけで何話してるのさぁー、僕だって同じ事を立花先輩に言われたのにぃー。一人ぼっちにする気ー?」



春の木漏れ日が清々しい今日この頃。先輩方、私達は先輩が居なくなった学園で何とかやってます。先輩方はいかがお過ごしでしょう。まぁ、七松先輩の事ですから、元気に過ごしておられるのでしょうが…。もしもまたお会いできる日が来たら、それまでに、私達は先輩達が残していった言葉を、理解して実行に移していたいと思っています。


私なんかより、君を好きになりなさい

“この言葉は、私達からの最後の餞別でお守りだ。今はこの言葉の意味が分からないだろうが、意味が分かった頃には、私達はお前達を助けてやれないからな。しっかりやれよ”






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