小説 | ナノ
「おい、お前ら……全く」
次の予算会議に向けて帳簿を合わせていた。徹夜が続いたからだろう、皆帳簿に顔を乗せて寝息をたてている。五年生になってしっかりしてきた左門も流石に限界が来ていたようだ。仕方ない、と私は少しでも仕事を進めるため算盤を弾いた。
ぱちぱちぱちぱち
(昔は限界だって時にこの音が子守唄のように聴こえたっけ)
ぱちぱちぱちぱち
(あの頃は無茶なことを沢山やらされたよなあ)
ぱちぱちぱちぱち
(それでもあの場所が心地よかったりして)
ぱちぱちぱちぱち
(懐かしいな…あの人はどうしているだろうか)
ぱちぱち、ぱち
(わかっている、けれど)
ぱち、ぱち
(もう一度会えたら)
ぱち、
(もう一度、だけ)
視界がゆっくりと暗くなっていく。その中で、もう聴こえることのない子守唄とあの人の姿を探している自分がいた。
とろむ瞼に映る面影
(それはもう、はっきりとは見えなくて)