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「最後の委員会活動、終わり」
 裏裏山までのランニングを終えて、わずかに額にかいた汗を拭いながら、わたしは七松先輩のその言葉を聞いた。顔を上げる。夕日を背にしながら立っていた七松先輩は、わたしと目が合うと歯を見せてニカリと明るく太陽のように笑う。そうして体をするりと屈めて、わたしたちが一緒に体を通していた縄から抜けた。
「とりあえずおまえたちが元気でやってくれればわたしは嬉しい。あとわたしのこと忘れないでいてくれたら」
 他の六年生の先輩方はもうすでに委員会の後輩へのあいさつを済ませたらしく、五人揃って未だ蕾の桜の木の下へ集まっていた。七松先輩はそちらの方を横目で見つつそう言うと、わたしたちひとりひとりの頭を金吾から順々に撫でていった。そうしてわたしの頭を最後に撫でて他の六年生の先輩方のところへ走って合流すると、呼びかける金吾や四郎兵衛の声にも振り向かず、他と揃って学園の門を出て行った。
 頭の上に七松先輩の手の感触が残っている。それから夕日に向かうように去る七松先輩の背中、揺れる髪の束。目の奥がその形に焼かれたように。忘れられるはずもないのだ。本来夜に生きて太陽はおろか月すら好まないのが忍者ではあるが、わたしは忍者の卵ながら、おそらく太陽が好き。
 風と軽い息切れの音だけがした。わたしはいつもよりもやけに強く顔へ冷たい風を受けた。涼しい、と思ったのもつかの間、それは七松先輩がもう私の前にはいないからなのだと気づく。
 別れが悲しいのだった。わたしの後ろに一列に並んだ奴らの嗚咽と涙に紛れ込むように、わたしも静かに泣いた。今までならばその涙をざらついた指で拭ってくれた七松先輩はもういない。けれども山の陰に隠れ入りそうな夕日の熱で、自然とわたしの涙の筋は乾いていったのだった。



/祈るように君の涙を拭う、それはただの我が儘



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