小説 | ナノ





先輩が卒業するまで、あと1ヶ月。僕ら以外の学級委員が学園長先生に呼ばれている今、この部屋には尾浜先輩と自分しかいない。騒がしい人たちだが、あとひと月すればこんな静寂は当たり前になる。
「先輩たちがいなくなるとなんだか寂しくなります」
と、尾浜先輩についもらしたら。先輩は一瞬キョトンとしたけど、俺もだよ、と小さく笑いかけながら言ってくれた。
「でも、ここからいなくってもきっとまた来るよ。お前や庄左ヱ門に会いに」
卒業したらもう会えなくなると思っていたのに、先輩は意外な言葉を返した。「はい」と頷いたけど、返事が遅れてしまった。
「嘘だと思う?俺は本当にそうしようと思って言ったよ。じゃあ、約束しよう。」
その前に、と出されたのは尾浜先輩の広げられた手のひら。
「カステラのおかわりある?」
なぜ今カステラ?よく分からないけれど、机の菓子入れを確認する。
「ええと、すみません、もうないんです」
「ええー!せっかくだから一緒にカステラを食べて誓いを交わそうと思ったのに〜」
尾浜先輩お気に入りのひとつのそのお菓子は中々の高級品で、たまに学園長先生や庄左ヱ門経由でしんべヱに貰う代物。
「あはは……数もなかったから、今日はもう一切れずつ分けたらなくなってしまいました」
「ちぇ。まあ仕方ない、ないものなら。ではこのお茶がその証だよ」
少し前に庄左ヱ門が淹れた湯のみを先輩は前に出す。よくわからないけれど、僕も自分の湯のみを持つ。カチンと、鈍い音と共に手元の茶が跳ねる。先輩が僕の湯のみに自分の湯のみを合わせた。
「卒業しても、また会いに来る」
「はい、きっと来てくださいね」
湯のみの中のお茶は冷めていたけれど、不思議と胸の中はあったかくなった。
その時心に浮かんだことば。卒業まであと一週間と迫った今も、喉の奥にある。言いたくなったら伝えてしまうかもしれないけれど。
――きっとあなたの好きなカステラを切って、待っていますから――
など。そんなこと気恥ずかしくて言えない。







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たぶん恋愛。不思議な気持ちだと思いながらも本人は気づいてない。
両想いになってほしいと思います。




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