小説 | ナノ




「潮江先輩!」


忍術学園を出てすぐの場所、塀をよじ登った団蔵と左吉が声を上げると文次郎は足を止めた。三木ヱ門と左門は門から文次郎を追う。
学園からは小さな子供達の泣き声が聞こえる。その殆どが一年は組のものだった。今日は六年生の卒業式。六年生は各々の委員会の後輩達と最後の別れを惜しんでいた。当然その中に加わろうとした会計委員会だが、いくら捜しても文次郎の姿が見えない。
校内を捜し回ろうとしていた矢先、彼が学園を出たと教えに来たのは小松田だった。


「何をしに来た」


文次郎は振り向いたものの、笠を被っている為その表情は見えない。塀から降りた団蔵は一瞬怯んだが、すぐ三木ヱ門と共に文次郎に抗議した。


「何、じゃないですよ!卒業のお祝いを…」

「バカタレ!その考えが甘いのだ!卒業したら俺達は忍者として生きていかねばならない。それを祝ってなんかられるか!」


左吉が表情を曇らせる。後ろ手に隠した存在を気取られぬようにしていると、左門がその手から奪っていった。


「卒業祝いです」

「か、神崎先輩…」


先程の話を聞いていなかったのかと問いたくなるほどにマイペースな彼に三人は怒鳴られる事も覚悟した。当然文次郎は叱り付けようとそれを受け取ったが、包みを開いて息を飲んだ。


「何故お前達がこんなものを?」

「一年は組のツテをフル活用しました」


団蔵が申し訳無さそうに答える。文次郎の手に収まっているのは桐の箱に入った袋槍だった。今まで文次郎が使っていたものとは比較にならない程の業物だと素人目にも分かる。重々しい表情で桐箱を閉める文次郎を団蔵は消え去りたい思いで見つめていた。


「本当にお前達はバカタレだ」

「は、はいっ」


やはり余計な事だったのだと身を縮こまらせた団蔵と左吉、三木ヱ門に文次郎が歩み寄る。何をするのだろうと団蔵がぼんやりとそれを見上げていると、文次郎が順に彼等の頭を撫でたのだが、撫でると言うよりは叩く勢いであった。当然団蔵達は殴られたのだと認識し、涙が滲む。文次郎が指先で笠を上げた。


「こんな事されたら別れが辛くなるだろうが!」

「じお゛え゛ぜんばぁぁい゛!」


左吉が駆け寄ると団蔵も後を追う。左右の足にしがみ付く一年生二人、なんとなく文次郎の背にぶら下がる左門。泣きながら笑っている三木ヱ門と、状況は一瞬にして混沌と化した。特に一年生二人は懸命に何か話しているのだが、泣きながらの為何を言っているのか聞き取れない。


「三木ヱ門、こいつ等なんて言ってるんだ?」

「あー…、潮江先輩怖いと思ってごめんなさい。もっと遊びたかったです大好きです…ですね」


卒業式の後に渡す筈だったが団蔵の字が原因で渡せなかった手紙の内容を三木ヱ門が言ってしまうと、団蔵がぴたりと泣き止んだ。団蔵はただ、卒業してもお元気でと言いたかったのだと三木ヱ門に訴えようとすると、額に水が落ちる。


「お前達…」

「潮江先輩…」


文次郎が泣いていた。その泣き顔はすぐに文次郎が顔を背けてしまった為に見えなかったのだが、頬を伝う涙は隠す気は無いらしい。それを見てまた団蔵の目に涙が浮かぶ。


「お前達は俺の自慢の後輩だ」

「それは…何よりのお言葉です」


三木ヱ門の震える声に照れ臭そうに笑った文次郎は団蔵と左吉、左門を自分から離し再び頭を撫でた後に踵を返した。


「先輩!きっといつか、加藤村に遊びに来てくださいね!」


遠くなっていく背に叫ぶと文次郎が片手を挙げる。きっと果たされはしないと分かっているが、団蔵は約束したものと、その日までに少しでも成長して驚かせてやろうと考えた。




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