ロイド・アーヴィングの特技は他人を悩ませることだ。

そう、ゼロスは思った。おそらくこれを口にすれば彼の仲間は考えながらも全員否定するだろう。たしかに彼は他人を悩ませるが、なんだかんだ言ってその笑顔はいつでも仲間達を励まし、そして幸せにしているからだ。

「…だからこそ、だ」
ゼロスはその少年を目で追いながら苦笑した。相変わらず今日も彼はコレットに邪険のない笑顔を向ける。もちろん、彼の友人であるジーニアスにも。最近では戸惑いながらも父であるクラトスに笑いかけるようになった。それにこたえるようにクラトスがロイドの頭を撫で、照れ笑いを浮かべている親子の幸せな風景を見たことがある。


やっぱり、血の繋がりがあると笑顔の種類が変わった。甘えるようなその表情に正直ゼロスは驚いた。ロイドの表情はめまぐるしく変わるものだとは知っていたが、あんな他人にすがるような目は見たことがなかった。

その点ゼロスにはあまり笑顔を向けない。というかむしろ怒っていたり、拗ねていたりする。理由のほとんどはゼロスの意地の悪さにあるのだが。(さすがに本人も気付いている)

「何か気にくわねえなあ…」

よくわからないもやもやが、ゼロスの胸のあたりにつっかえていた。
* * *



「な…」

思わずゼロスはぽかんと、自分の上にいるロイドを見つめた。


顔の横にはロイドの腕。
そして何故かゼロスに馬乗りになる彼の瞳は、深く真摯にゼロスを見つめていた。

ちなみにゼロスは普段滅多に口にしないが、ある程度整っているロイドの顔を、そう悪くないと思っている。笑顔も怒りの表情も、案外色気が出ている憂いの表情も。父親の遺伝子をばっちり受け継いでいるのか、本人の自覚なしに他人をひきつける。ゼロスでさえ時たまうっかり見とれてしまう程だ。

ロイドの表情の種類は極めて多いが、彼の裏表ない性格からかゼロスはそのほとんどを見たつもりだった。(今朝の父親に向ける表情は例外だ。あれはクラトス専用なのだからしょうがない。)

しかし今、ゼロスを見下ろすロイドの表情は初めて見た。真面目な顔ならいくらでも見たことがある。しかし、いつもと目が違うのだ。驚くほど深く熱っぽい視線に、ゼロスはたじろいた。


「ロイド…?」


思わずゼロスから嘘や偽りのない素の声がでる。何しろゼロスは昼寝をしていただけなのだ。妙な息苦しさを感じて目を覚ませばこのありさまだ。

「あのさ、」

ロイドは少し顔を近付けてゼロスの瞳を覗き込みながら、唇を動かした。
「そろそろ、気付いてくんねえ?」
「はい?な、何が」
「だからオレがお前を………」

言葉の途中で、ロイドは目線を逸らし気まずそうにチラチラと目を動かしていた。口を開こうとするも、思いとどまり結局黙りこむ。

「……ハニー?」

何か重大なことなんだと気付いたゼロスは(あくまでも善意で)体を起こし、ロイドの頭をくしゃくしゃと撫でた。もともとロイドのことは好きだ。悩みがあるなら打ち明けてほしいし、何とかしてあげたいと思うほどゼロスはロイドを信頼していた。

むろん、ロイドがゼロスに求めているのはその気持ちではない。言うまでもないが。


「何だよハニー、みずくさいな。悩みがあるならオレ様に言えってー」
「……その呼び方やめろ」
「今更どうした。今までハニーって呼んで、」


ゼロスが言葉を止めた。

否、止めざるをえなかった。重ねられた唇にゼロスは目を見開く。ロイドの頭を撫でていたその腕は力が抜けて、すとんとベッドに落ちた。

感じる熱に「ああ、キスしているのか」とやっと確信したころ、その唇が離れてロイドの瞳が視界に入った。悪戯っぽく笑った彼はゼロスを見つめ、唇を動かす。


「もうハニーなんて呼ばせないからな」


──そう。
それは宣戦布告だった。

「………え」
「ははっ、ゼロス顔真っ赤だぞ!!」
「う……そだろ、だってロイド、お前」
「ん?オレが何だよ?」

コレットちゃんはどうした、と言いそうになった口をゼロスは思わずつぐむ。きょとんと自分を見つめるその瞳は相変わらず純粋で無垢だ。よくわからないが、彼のこの瞳を見ると何を言っても無駄な気がする。

「…なんでもない」
「そっか」

相変わらずゼロスの上に跨がったままのロイドはへらへらと笑う。その笑顔が窓の外から差し込む日の光と重なり、改めて今は真っ昼間なのだと気がついた。


(何でオレ様、こんな昼間っから、しかも子分に襲われてんだろ…)

何だかだんだん自分のポジションがわからなくなってきて、ゼロスは溜息をつく。相変わらず熱くなった顔はおさまりそうにない。



今一度思う。
ロイド・アーヴィングの特技は人を悩ませることだ。

(本当にロイドくんは馬鹿で、とんだ迷惑野郎だな……)

彼のせいでゼロスは今日も云々考えこんでしまっている。

その笑顔が好きだから
ロイドが好きなのか

ロイドが好きだから
その笑顔も好きなのか


それがどっちなのかわからないし、結局どっちも正しい気がしてきて、ゼロスは苦笑した。きっとこの気持ちに名前がつけられない自分が一番馬鹿なんだろう、と。





これは病気ですか?

いいえ、それはです。

++++++

10/12/13
修正 12/30
ロイド君が万年発情期


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