バレンタイン フリー小説  


「就架、今日は2月14日なわけだが何か忘れてねーか」
「バレンタインデーよね?毎年イタリアからの荷物が多くて整理が大変なのよ」
「いや、そうなんだがそうじゃなくてだな・・・」

さらっと、ものすっごくさらっと流された。
隣のキッチンから漂ってくるコーヒーの香りが恨めしい。せめてホットチョコレートならよかったんだがなぁ、なんて思う俺は相当女々しいだろうか。
それにしても、つれない。
再会してからしばらくして、俺たちは・・・その、恋人・・・と言う関係になった・・・はずだ。(周りにはやっとかとか、今更かとか言われた。・・・あの真田にまで。なんでだ。)
なのに、このつれなさは何なんだ、いったい。

「就架―、チョコくれねぇのかよー」
「あらいやだ。忘れていたわ、ごめんなさいね。いつもFamigliaで花とか贈りあってたからカップルのイベントってことも日本式の事忘れていたのよ」

頂く事の方が多かったしね。そう言われて目に付くのはリビングの隅に追いやられている荷物の数々と、さっき届けられたばかりの、花瓶から零れ落ちそうなくらいに大量の真紅のバラ。このバラの送り主(ディーノと言うらしい。弟のような兄だと言っていた)を見たときの就架の呆れたような、それでも心底嬉しそうな笑顔がちらつく。
きっと、就架もこの送り主の元へ何か贈っているのだろう。やっぱり、就架の心はイタリアにいるという家族の下にあるんだろうか。 (俺よりも・・・?)

それにしても、日本に帰ってきたばかりと言うわけでもなし・・・気づきそうなものだがなぁ。
いや、就架の場合こういったイベント事は家族が関すること以外は結構流す傾向があるから。バレンタインも脳内で家族行事に摩り替わってたのか?
や、んな馬鹿なことはねぇか。

「もう、そんなに拗ねないで?」

マグカップを2つ持ってキッチンから出てきた就架は困ったように言うが、恋人にバレンタインデー忘れられて、これが拗ねずにいられるかってんだ。
テーブルに自分の分のカップを置く就架にちらりと視線を向けて、すぐにそっぽを向いた。・・・ら、くすくすと声を潜めて笑われた。自分でも子供のようだと思うが、やっちまったもんは仕方ねぇ。

「ふふふ、ホント、元親ってばかわいいわねぇ」
「・・・けっ、言ってろ」

完全に、子供扱い。いつものパターンだ。
俺の分のマグカップの中身はいつもと同じカフェオレだった。きっと、砂糖の量もいつもと同じなんだろうが、いつもより苦そうな気がして口をつける気にはなれなかった。
それを見透かしたかのように、就架が俺の座っていたソファーのとなり、肩が触れ合うほど近くに腰を下ろして腕を絡めてきた。

そして、ふと気づく甘い臭い。
俺がそれに気づいたことが分かったのだろう。紅く艶やかに彩られた唇が弧を描いて、しんなりと目が細められた。

やられた。

見せ付けるかのように緩慢な動きで、やたらと短いスカートから伸びた白い左の太腿が俺も右足にかけられ、細い右手が俺の耳から首筋を柔らかくたどり・・・って、まて。この体勢はやばいだろっ!!胸が当たってるぞ!!
半分のしかかられたような体勢で、熱の篭った視線で目を射抜かれた。

「ねぇ、」

就架からほのかに香るいつもとは違う甘い・・・チョコレートの臭い。発する声はそれよりも更に甘ったるく、

「チョコの代わりに、チョコより甘いものはいかがかしら?」

獲物を追い詰めた猫のような笑顔と共に、俺に誘いかけてきた。



その後、たっぷりと数秒(いや、もうちっと長かったかもしれねぇ・・・)間、見事なまでに硬直した俺を現実に引き戻したのは、就架のくすくすと肩を揺らして笑う声だった。
呆れたように、冗談よと言って渡された箱に書かれていたのはチョコレートの有名ブランドの名前。
やられた。またからかわれた。

「ったく、驚かせんなよ」
「ふふふ、ごめんなさいね?」

カフェオレに口をつけながら、文句を言う。
顔が赤くなってるだろうから、照れ隠しにしか見えてねぇんだろうなー、とか考えている俺は、就架がぽそりと小さく何かつぶやいた事には気づけても、言葉自体を聞き取ることは出来なかった。



Buon San Valentino !!!



「冗談は半分だけなのだけれど・・・気づくかしら?」


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