或る夏の日の出逢い | ナノ


 01




何故、離れたくないと願う相手ほど、離れていってしまうのだろうか。



「(――松陽先生、)」

『(――お父さん、お母さん、)』

「(――仲間たち、)」

『(――そしてなにより、)』




―――絢。

―――晋助。



どうして、世界は大切なものを奪い去ってしまうのだろうか。私たちが、一体何をしたというのだろうか。


大切なものは奪われる。


やっと手に入れたと思ったのに、どうしてこの手からこぼれ落ちていってしまうのだろうか。



何故、逝ってしまうのか。
何故、行ってしまうのか。
何故、引き裂かれてしまうのか。



神なんていないと、けれどもし神がいるのならば。どうか。私たちを引き裂かないで、と。

絢と高杉は、祈って。



『…何で、出逢ってしまったのでしょうね』



絢の言葉に、高杉は小さく笑った。



「…さァな。ただ、俺は絢に出逢うことができて良かったと思ってるぜェ?」

『晋助…。そう、ですね。私も晋助と出逢うことができて本当に良かったと思います』



高杉を知らなければ、独りぽつんと、あの部屋で言葉を発することなく生きていたのだろうと思うと、苦しくて。けれど、これからはあの場所に帰っても高杉はいないのだと思うと、胸が引き裂かれるような思いがして。

この苦しい気持ちをどうすればよいのか分からなくて、絢は自らの胸を強く押さえた。



「……絢、」

『…晋助と、もっと一緒に居たかった…』



ただの願望でしかないのだと、そうは思っていても、これが最後なのだと。自分の気持ちを伝えられる時間はあと僅かしかないのだと思うと、止めることができなくて。

苦しげに言葉を吐く絢を見て、高杉はただその様子を見つめて。


高杉が絢へと手を伸ばすと。



「……?!」

『、晋助……手が、透けて……!』



瞬間に、悟る。

時が、来たのだと。



『…しん、すけ……』



たどたどしい言葉で高杉の名前を呼んだ絢に、高杉は消えゆく身体を絢へ向け、見つめ合って。



「……絢、」



願えば、叶うこともあるのだと。



『……晋助、?』



言葉にしなければ届かないと。

教えてくれたのは、誰だったか。



「…俺と、俺の世界に来てくれねーか」



高杉は、絢をまっすぐに見つめて。絢は頭の中で、高杉は本気なのだと、どこかで悟っていた。



『……私は、』



世界を、捨てる覚悟を。



『……晋助、私は……』



答えは、もう心の中に。



『晋助……愛しています』

「……あァ、俺もだ。絢、愛してる」



どちらともなく近づき、抱き合う二人は一つになったかのように、透けはじめて。何も恐れるものはないと、強く互いを抱きしめた。

決して離れることがないように、と。



満月の輝きが一層増し、眩いくらいの光が辺りを包む中、絢と高杉は瞳を閉じて―――











――月の光に包まれて、抱き合う彼らは姿を消した。

そして、二人の行方は知れず。












(世界の終わりまで、貴方と)









end.
2013/8/10

完結






≪|≫

back
×