それは、秘密 | ナノ


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昨夜の一件のことがあったので、少しの間コナンくんに遭遇する可能性のあるポアロには近寄りたくないなと思っていたのであるが、そんな時に限って急に頼まれごとをされるものだ。


「……運が悪いなあ」


しかも、今日は日曜日。

どう考えても、コナンくんの通う小学校は休みだろう。遭遇する可能性が高い曜日と言える。日曜日なのに仕事をしているのか、という愚問に答えるつもりはない。警察官は日曜でも警察官やっているでしょう。


憂鬱な気持ちを抱えながら、ポアロのドアをくぐる。


「いらっしゃいませ、朝倉さん。いつも通り、カウンター席でよかったですか?」


いつもの席が空いていますよ、と言いながら笑顔で出迎えてくれたのは、営業スマイルを張り付けた安室さん。


「こんにちは、ありがとうございます」


出迎えてもらえるならば梓さんがよかったな、だなんて。安室さんは怒らないだろうけれど、風見さんが怒りそうなことを考えながら、促された席へと座る。

いつもと同じ注文をして、一息つく。


今日も今日とて、風見さんから渡すように頼まれたUSBメモリを持っている。

内容は今回も確認済み。黒の組織の取引相手候補に挙がっている、とある裏社会の組織に関する情報だった。きっと、ジンからバーボンへ、調べるように指示がされていたのだろう。風見さんが肩代わりとは、ご苦労様なことだ。さっと目を通しただけであるけれど、今回はきっとこの組織は取引相手にはならないだろうと思った。ちょっと目立ちたがり屋なトップのようで、手を組んでこちらの情報が洩れたら不味いから。

まあ、私が関与することではないけれど。


「お待たせいたしました」


いつも通り、コーヒーを持ってきてくれた安室さんのポケットへUSBを忍ばせる。任務完了。

お互いに笑顔を浮かべたままの、一瞬のやり取り。


いつも適度に時間を潰してから帰るけれど、今日はなるべく早めに切り上げようと決める。あまりにもそそくさと帰るのもおかしいかと思うので、今日も持ってきている小説を取り出す。


小説を読みながら、物思いにふける。

考えるのは、コナンくんのこと。


昨夜の一瞬のすれ違いの時。沖矢さんと何をしていたのかは全く分からないけれど、私の存在に気付いたことは間違いないのだ。そして、驚愕の表情をしたことも。

黒の服装をしていた私を見て、黒の組織の人間だと思ったのだろうか。いや、でもそれは浅慮というものだろう。一般市民で黒っぽい服装を好む人が何人いることやら、という話だ。


しかし、あの時間帯にあの服装で動いていたことに対して何かを思ったということは間違いがない。

けれど、このポアロに通っていることに対して何を思うだろうか。黒の組織の人間であると仮定した場合、バーボンを見張っているだとか情報のやり取りをしていると考えるのだろうか。黒の組織の人間はそんな目立つことはしないだろうけれど。それとも、公安の人間だと思っただろうか?でも、公安の人間があの時間に私服で動いているのも如何なものなのだろうかと思う。


さて、コナンくんはどんなことを考えているのだろうかと思っていると。


カラン、と音を立てて入店した人がいることを知らすベルが鳴る。


―――ああ、嫌な予感。


「おや、いらっしゃいませ。今日は一人かい?」
「うん、ちょっと話したい人がいるんだ!」


わざとらしいくらいの子どもっぽい話し方。安室さんの対応も、まるっきり子どもに対応するそれだ。

ポアロに一人でやってくる子どもなんて、一人しかいないだろう。


「……こんにちは、唯お姉さん」


子どもらしからぬ表情を浮かべたこの少年は、何を考えているのだろうか。


「……コナンくん、」






(噂をしていたわけではないけれど)
(今、丁度ボウヤのことを考えていたんだよね)



2020/5/11


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