それは、秘密 | ナノ


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非常に珍しい、何の予定もない休日。


いつもは何かしらしているから、家のことでも済ませようかと掃除、洗濯、買い出しとやることをやってみたものの。あまり物事をため込みたくない性格も手伝い、普段からある程度整えていることもあって昼過ぎには全ての用事を終えた。


時間を持て余すなんて、と小さく笑いながら久々にウィンドウショッピングでもしようかと、大型のショッピングモールへとやってきた。

世間一般でも休日であるためか、子ども連れの家族や若い子たちが目立っている。そんな中、ひとりで歩いている自分はちょっと目立つかしらと思いながらも久々の時間の使い方に多少なりとも心が躍った。


仕事柄、おしゃれをすることは少ない。あったとしても同僚の誰かと潜入調査のためにカフェに行くからとか、そんなもの。ジンと出かけることなんてほとんどないし。行ったとしても、私たちが出逢ったあのバーに行くときくらいだ。いわゆる恋人のデートらしいことはしないし、別にしたいとも思っていないのでそれでいいかと思っている。基本的には自宅で会うか、それともどこかのホテルに呼び出されるか。ほぼその二択だ。

スーツでいることが多いため、何となくスーツが置いてあると目がいってしまうが、こういう所に置いてあるのはいわゆるリクルートスーツのようなものが多い。あったとしても、どちらかと言えば子どもの入学式や卒業式にでも着ていくような礼服に近いものがほとんどであるため買う気にはなれず。


結局、雑貨店で見つけた果実をそのまま使った食べられる紅茶というものと、よく行く紅茶専門店でお気に入りの茶葉を買い足して帰ることにした。


もともと大量に買い物をする気がなかったため、最寄り駅までバスできていた私は、バスの時刻表を確認していると。


「おい、あんまり走るんじゃねーぞ」


聞き覚えのある声に、顔を上げると。

ひげを蓄えた恰幅の良いご老人が、小学生くらいと思われる子どもを五人も連れて歩いていた。そして、この聞き覚えのある声はそのご老人ではなく、一緒に歩いている少年から発せられたものだということに気付いた。


「(あれは、江戸川コナンくん……)」


距離もあるため、コナンくんは私に気付いていないようである。けれど、まあはっきり言って特徴的な服装をしているコナンくんは、一目見ただけで彼だと分かってしまう。

こそこそ隠れるつもりはないが、ついその一行を目で追ってしまった。一緒に歩いているご老人が、赤井さんに変声機を提供し、他にも様々な発明をしているという阿笠博士だろうか。そして、小学生と思われる子どもたちは、コナンくんの通う学校の同級生だろうか。


そんなことを思いながら見ていると、どうやら活発な少年少女三人と、利発そうな少年少女二人と阿笠博士、という組み合わせに分かれているように思う。きっと、後ろを歩くコナンくんとその隣を歩く利発そうな少女は、いつも前を歩く三人の保護者役を果たしているのだろうと考えて少し笑った。小学生に保護者役とは、と思いつつも、小走りで先へ進もうとする活発な少年少女を窘める、大人ぶった少年少女として目に映るその姿は可愛らしいものだ。

楽しそうにはしゃいでいる三人の子どもたちは、コナンくんがどれだけ注意をしても聞かずに騒いでいる。それを見かねた利発そうな少女が、阿笠博士を見上げながら声を発した。


「もう、博士も。何とか言ってあげてよね」


利発そうな少女が口を開いた途端、私の視線はその子に釘付けになった。

だって、その声は……


「すまんすまん、哀くん。ほれみんな、コナンくんと哀くんが困っておるぞ」
「全く、そんな言い方して…」
「ハハハ、しゃーねぇだろ…」


呆れ顔でコナンくんと並ぶ、哀くん、と呼ばれたその子。

哀ちゃんという名前らしい、その子の声は。


「まさか、シェリー……?」


特徴的な、赤みがかったウェーブ状の茶髪。そして、髪型。子供らしからぬ、利発そうなその大人びた表情も。そうだ、明美さんも、妹は組織の研究員だったときから年齢にそぐわぬほどの大人っぽさを持ち合わせていたと言っていたではないか。


けれど。そんな、まさか。常識で考えたら、そんなことあり得ない。


シェリーは組織から逃げた。確かに、どうやって逃げたのかなんて分からない。しかし、ミステリートレインでの爆発によって死亡したとの報告が、ベルモットからあったと聞いている。

爆発から逃れる術があった?協力者がいた?あらかじめ計画立てられた事件だった?その計画を立てたのはもしかして……あの、江戸川コナンくん?


あり得ない、と。そう思っているのに。

コナンくんたちと共に立ち去ってゆく彼女の後ろ姿を、呆然とした気持ちで見送って。


幼児化しているということ?本当に?そんなことがあり得るというのだろうか。組織から抜け出し、ミステリートレインでの爆発から逃れ、幼児化した姿で生きているというのか。


それも―――あの、江戸川コナンくんの傍で。


ぐるぐると混乱する頭の中は、全く整理されることがなくて。けれど頭の片隅から、これが正解なんだよ、と囁く声が聞こえてきたような気がした。






(自らが立てた仮定が)
(どれほど常識外れだとしても)



2020/4/7


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