優しい微笑みと 
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その後、私達は再び山を下った。途中で魔物に出会ったりもしたが、カノンノが戦ってくれた。私の所に来たりもしたけど、ごめんなさいと思いながら必死にスタッフを振る。たまに魔物の当たる感触がして、身体が震えるのを押さえ込んだ。
そして、やっとカノンノのお迎えの船との待ち合わせ場所につく。そこは木々を抜けた先にあって、綺麗な渓谷。下からは清流が流れる音が聞こえてくる。

「あれ?まだ船が到着してない。 私達の方が、先だったかな」
「結構時間がかかったと思ってたんだけど・・・」
「そんなことないよ、クロノ頑張ってくれてたおかげで、順調だったよ」
「はは、なら良かった」

まだ到着してないとの事だったが、ここは渓谷だし、船は来れないと思う。来れたとしても、かなり下に来るはずなのに何でここが集合場所なんだろう。

「ねぇ、クロノ。これから、私たちのギルドに来てくれるわけだけど、言いたくないこととか、無理に言わなくて大丈夫だからね」
「カノンノ・・・」
「みんな、知られたくない事って必ずあるもの!・・・・・・私だってそう。だから、言えることだけでいいからね!」

カノンノは少しだけ悲しそうな顔をしたけど、すぐに笑って私の手を握ってくれた。

「うん、ありがとう」
「私はどんなクロノでも受け止めるからね!」
「ははっ、カノンノは優しいね」

カノンノは少し目を見開いた後、今までで1番いい笑顔で笑った。
すると、ゴウンゴウンと重い機械音が響く。カノンノが私の手を引いて、空を指さした。

「あっ、船が来たよ!」

空を見上げれば、金属の塊が浮かんでいた。それは船と言うにはあまりに機械っぽくて、なんだか私達の世界にある超合金のロボットのように見えた。

「すごい・・・」
「いこう!私のギルドに!!」

私はカノンノと片手を繋いだまま、ハッチの開いた船の中に乗り込んだ。乗り込んでしまえばこちらのものなのだが、移動を始めたのか不思議な浮遊感が一瞬襲う。

「おっと・・・」
「大丈夫?慣れないとふらついちゃうよね」

私も最初はふらついちゃったもん、と笑うカノンノ。手を借りながら中に入ると今まで見たことのない作りで、どうしてこれが動いているのか少し興味が湧いた。

「あら、カノンノおかえりなさい」

私達を迎えてくれたのは、カールのかかった水色の髪を高い位置で一つに括った女性だった。

「ただいま、アンジュさん」

カノンノが彼女の元まで一緒に歩いてくれる。青い髪の彼女は優しい顔をした女性で、白い服が柔らかい雰囲気を醸し出していた。

「お仕事お疲れ様、無事にペカン村の人達は山を移動できたみたいよ」
「本当!良かった・・・」
「ええ、それでこちらの女性は?」
「・・・!」

私は思わず身体をびくつかせた、カノンノの後ろに隠れてしまった。

「この子はクロノ、ルバーブ連山で出会ったの。クロノ、この人はアンジュさん、優しい人だから大丈夫だよ」

カノンノは私の背中をポンッと押す。私はそのままアンジュさんの前に出される。こういう時、どうすればいいのかわからない。
すると、アンジュさんがニコリと笑った。

「それじゃあ、自己紹介からね?わたしはアンジュ・セレーナ。あなたの話を聞いてもいいかな?」
「は、はい・・・あの・・・・・・」

私はその時あの大人達を思い出した。私の言う事を信じようともせず、落ち着いてちゃんと話せと言う。駄目だ、思い出したら・・・・・・!アンジュさんはあの人たちとは違う・・・!!
心では思っているのに、体は強ばったままで、俯いてしまう。ギュッと目を瞑って落ち着け!と自身に訴える。
すると、私の背中を誰かが優しく摩ってくれた。そっと振り返ればカノンノが優しく笑っている。

「クロノ、無理しなくてもいいよ?」
「カノンノ・・・」
「彼女の言う通りよ、無理に話さなくてもいいわ。あっ!でも、お名前くらいは貴方の口から教えて頂戴」

茶目っ気を含ませてアンジュさんは笑う。私は身体から無駄な力が抜けるのが分かった。そして、深呼吸をしてから、アンジュさんに向き直る。

「はじめまして、クロノと言います」

アンジュさんは、はじめまして、クロノ、と柔らかい声色で呼んでくれた。

「何があったのかは、無理には聞かないわ。でも大丈夫よ、私達は貴方の敵じゃないわ」

この人の微笑みは、人を安心させることが出来ると感じた。私は緊張の糸がプッツリと切れてしまったようで、そのまま意識を手放してしまった。直前にカノンノとアンジュさんの声が聞こえた気がする。
こんな事になってどうしようかと思っていたけど・・・大丈夫、私はやり遂げる。やり遂げなきゃ・・・彼女を必ず、見つける。

優しい微笑みと



 
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