星降る夜に
空が珍しく明るい、ような気がする。いつもはもっと暗く、光っているはずなのに。しかし、上を見上げるとそこには月が優しくその光をこちらへ浴びせてくるだけだ。
「太陽なんかあびたら、確実にとけてたのだ」
ひとまず安心。家中の時計がずれていない限り、私が太陽が活動する時間に外にでることなんてない。
だって、私は。
「夜型人間なのだー」
実を言うと、夜であっても出たくなんかはないのだけど、家族がうるさいんだ。少しは動かないと、大変なことになるって。
外の世界に素敵なことなんて無い。この世界から不思議は消え去ってしまったのだよ。だから、私はその不思議を求めて未開の電子の海を泳いでいるのだよ。なんといっても私の夢は王子様と出会って玉の輿になることだからね。
昼は怖いし、恐ろしい。何もかもがその光によって曝されてしまうから。隠すことなんて出来ないように感じているのだよ。
そのわり、夜は好きだ。月は優しく笑むだけだし、星もそれぞれに話しているだけにすぎない。そして、光よりも影のほうが多いのだからね。知らないですませられるし、知られないですむんだよ。
河川敷を歩く私の耳には、川のせせらぎがほとんど唯一の声だ。遠くで車が行き交う音も少しだけ聞こえているけれど。
今日は本当にいい天気だよ。そうつぶやこうとした瞬間、砂利に足を取られる。
「ったあ……」
ホントついてないよ。血出てるんじゃないのコレ。
そんな時、後ろから声がした。
「大丈夫?」
そういうと、彼は怪我した足に触れじっくりと見つめる。そして、かばんから何やら取り出す。
「消毒させてもらうよ、小さな怪我でも侮れないからね」
手早く彼は消毒し、絆創膏を貼る。そして彼は自分が着ていた上着を私にかけてくれた。
「そんな薄着じゃ風邪を引いてしまうよ?」
女の子は体調を崩しやすいんだから気をつけないと、ね。と微笑む彼の笑顔はとても綺麗だった。まるで、王子様みたいで。
「今日は流星群が見れるんだ、あなたもそのつもりで来たのでしょう?」
小さく頷く。流星群とかは全然知らなかったけど、彼と一緒に入られる時間が長くなるならどんなものも使うのだよ。
私達は河川敷の斜めになった部分に寝転がる。
いつもならただ過ぎ去ってしまえばいいと思う時間が、止まって欲しいと思うなんておかしいよね。
「あ、始まった」
少しだけぼんやりしていた心を星空へと向ける。
星が落ちてくる。一瞬で。次から次へと。言葉にならない感動が私の中に生まれた。何も言わずにぽかんと口を開けている姿は滑稽だろうから、彼がこちらを向かないように少し祈った。この胸のドキドキしているのが伝わらないようにというのも。
もしかしたら、王子様は魔法使いでもあるのかもしれない。
魔法のようなひとときはあっという間だった。送って行こうか、という彼の提案にぶんぶんと首を横に振る。彼は少し心配そうに眉を曇らせると、気をつけてね。と手を振ってくれた。
私はそれに答えるように小さく手を振り、家へと歩みを進めた。少しだけ駆け足なのはこのドキドキが家まで続いて欲しかったからだ。
家へ近づくたびに彼のことを思い出しては、あの胸の鼓動が蘇る。ふと気がついた。流れ星に願いをかける事をしなかったと。
それを思い出して、空を見上げる。その時、流れ星が流れる。どうか、もう一度彼に逢えますように、なんてベタすぎるお願いを、星に。
「なーにやってんだ? 風邪引くぞ」
そんな声をかけてくるのは、兄である勇雨(イサメ)なのだ。
「その上着誰の?」
そういえば、王子様にコレを借りたままだった。
「王子様に会って借りたの」
イサメは怪訝な顔をする。
「テンション高いの、低いのどっち?」
「王子様は王子様らしい素敵な人だった」
つーと、あいつかー。俺が返しとくからさっさと寝ろ。と部屋へ押し込まれる。
そんなふうに言われても寝るわけがない。私にとってはむしろ今からが活動が活発になる時間なのだよ。
とりあえずは今日起こったことを日記にでも書こうかな。
もしコレがお話の始まりだとしたら、これからたくさんの不思議が起こるはずなのだから。
2013/11/29