勇者とネコと魔法使い
「つーか、俺らどうすりゃ帰れんだろうな」
「まあ、勇者っていわれたし魔王でも倒せばいいんじゃないの?」
勇者クオの魔王退治みたいな、とおどけた口調で言う少年の名はツバサ。二人はいきなりこの世界に迷い込んだ少年だった。
「つーか、こんな最初の方の町に魔王がいたら逆に驚くわ」
二人は異世界という不可解な場所にも限らず落ち着いていた。
「猫耳の女の子とかいればいいのにね? でも、クオは彼女いるんだっけ。……リア充なんて爆発してしまえばいいのに」
そこからはクオをいじりながら二人は町を歩いていた。
「つーか、宿とか決めないといけないと思うんだが」
フラフラと歩きながらやっと気づく二人組。店を見つけるために、色々な路地を歩き回ることにした。
「ちびっこたち何か困っているみたいだね」
どこからか声がする。二人は周りを見回すが、人は周りにはいなかった。
「こっちだよ、僕が君らに声をかけてるの」
見回すとそこにいたのは黒猫だった。
「お前の方が小さくないか?」
ツバサが黒猫にそういうと、黒猫は一回転し黒猫がいた場所には男が立っていた。
「僕の方が大きいよ。チビっこ達」
なんかムカつくと呟くツバサにちょっとだけ余裕ぶるクオ。二人だとクオの方が大きいらしい。
「二人とも宿に泊まるみたいだけど、お金無いんじゃないの?」
二人は言葉に詰まった。二人ともこの世界の通貨を持っていないどころか知ってさえいない。言葉が通じるだけましと言ったところだろうか。
「ヌシサマのとこに案内するよ、ついてきて」
と黒猫の姿に戻り二人を先導するように歩き始める。二人はほかに頼る相手もなく、黒猫の後をついていく。
「ヌシって事は飼い主のとこかな」
「どーせ男だろ、俺らの運的に」
ネガティブな予想を繰り広げている二人であった。
「ヌシサマは素敵な人で優しい人だから、きっと二人の事も保護してくれると思うよ」
僕もこの頃ヌシサマに会えてなかったから会うの楽しみなんだ、と気分が高揚している黒猫の言葉にクオは反応した。
「会えてないって、今日会えるかどうか定かじゃないのか?」
少し不安げに尋ねるが、黒猫は問題ないと言う。
「ヌシサマのにおいを感じるもん!」
猫の姿でなければ危ない発言だと思う二人だった。
「あー、こんなところにいたのねシーナ」
上から声が聞こえるので、二人は上を向いた。そこにいたのは女性だった。空に浮かんでいたが。
「ヌシサマ!」
黒猫はうれしそうな声を出す。
「……ありがとうございます。この子を保護しててくれたんですよね」
よかったらお茶でもごちそうさせてください。という彼女の提案で二人は彼女の家に行くことになった。
「……二人は遠い所から飛ばされてきたのですか、大変ですね」
できる限り協力させてもらいますね、と彼女は微笑んだ。
「泊めてもらっただけで十分ありがたいのにそんな」
少年たちは断ろうとするが、彼女はすでについていく気が満々だった。
「……私も遠出する予定があったので、互いに利益があるんですからいいと思うんですけど」
「そういや名前……」
彼女はポンと手を叩くと、名前を名乗った。
「私はプラトーです」
彼女は支度を終えると、二人に向けて手を出す。二人は意味が分からずその手を見つめることしかできない。
「……私、風魔法使えるので」
「で、どうしろって言うんだ?」
「手を取ってほしいってことだよ。そうじゃないと魔法が使えないから」
肩に乗ったシーナがプラトーの代わりに説明を加える。プラトーは何か上の空のようだった。
二人は恐る恐る彼女の手を取った。
「それじゃあ、行きましょうか」
その瞬間背中を押すように風が吹いてきた。あまりの勢いに姿勢が崩れると、三人は地上を離れていた。
「空が飛べるなんて思ってみなかった」
ツバサはしみじみと言った。
「つーか、俺らどこに向かってんの?」
クオの疑問に、どこでしたっけと答えるプラトーになんだか頭が痛くなった二人であった。