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送る者と干渉論

「あのね、欲しいものが出来たんだ」
「何がほしいっていうんだい?」
 少しためらいながらも、はっきりとそれを口に出す。
「感情がほしいんだ」
「バカなことをいうね」
 そういって、笑うんだ。ずるい、ずるいよ。
「君が何の仕事をしているか分かっているのかい?」
「人のオワリを見送ること、だよ」
 当たり前じゃないか、間違っていないでしょ。
 彼の顔を見るとなんだか少し悲しげに見えた。
「そう、だから感情なんて必要ないんだ」
 君が上の人間じゃなければ最初に聞かれた時点で、この話はなかったことにしていたんだよ。
「どうして、他の奴らは持っているじゃないか」
「君は今までどれだけの人を見送った?」
 その数を述べると、彼は首を振りこう言った。
「まだその程度なんだろう」
 そして、今まで彼の見送ってきた人数を聞くと、その差はかなりのものだった。彼は見送ることが専門とするわけじゃないのに。こちらへ来た魂を導く事こそ、『死神』の役割を持つ彼の役目だというのに。
 彼が見送ってきた人数まで見送った時に、感情がほしいかもう一度尋ねると、そう言った。
 彼が何か呟いた言葉は聞こえてこなかった。それを尋ねようとすると、彼は思い出したとここに来た要件を述べ始める。
 それが終わると何もなかったように、視界から消えていった。長居をされても困るというのは事実ではあるけど。
 さて、先ほど彼から伝えられた案件について処理しなければいけない。そのための作業へ移った。

***

「どうせ、人に関わっていれば嫌でも感化されるのだから。わざわざ自分から苦しむ真似をする必要など何処にもないというのに。あの人はまだ幼いから、仕方が無いのかも知れないが」
 きっと、ユウスイに言わせれば甘いのかもしれない。アサカに言えば、夜風らしくない、と茶化されるかもしれない。ヒルトなら、なんて言うだろうか。後で尋ねてみよう、そんな事を思うことなど昔には考えられなかったことだ。
「それだけ、感化されたということだろうな」
「てか、俺らの場合先生と一緒だからってのもあるんじゃねえの」
 あの人、人間だから。と声をかけてきたのはアサカ。見た目は金髪蒼眼で正統派天使に近いというのに、中身は天使とは程遠い。
 ちなみに先生というのは、何故か一緒に生活している人間の男の通称。名前を知りたくなかったから、都合が良かったが。
「何のようだ?」
「そろそろ仕事終わる頃っしょ?」
 迎えに来てやったんだよ、感謝しろよ。と清いとは程遠い笑みを浮かべる。
 こういう時はなにか企んでる時だ。抵抗したほうが被害が大きくなるのもすでに分かっていることなので、そのまま帰ることにするが。
 翼を広げて下へと降りていく。殆どの人間にこちらの姿は見えないから隠す必要もない。
 先生の敷地はかなり広いらしい、他の人間を警戒する必要がないのはいい。
 家の方からかけだしてくる影が一つ。茶色の髪が跳ねる。そうかもうこちらは夜になっていたのか。向こうは時間がわからないから。
「おかえりー、朝火、夜風!」
「ただいま、ヒルト」
「昼土、今帰ったぜ。夕水と先生は中か?」
 大きく首を縦に振り、肯定を示す。同じくらいの年月を重ねているはずなのにこの差は一体何なんだろうか。経験の差だろうか。
「今日はボクも料理の手伝いしたんだよ!」
「楽しみだな」
「めずらしー、夜風が反応するなんて」
「夜風ってこの頃優しくなったよねー」
 ボク達に距離取っていたのが無くなってすごく嬉しいよ。だなんて、嫌に真剣な目つきで言うものではないだろう。こんな顔をするから、同じだけ生きていると気付かされる。まあ、こいつは吸血鬼だがな。先生の実験に付き合っているおかげなのか知らないがあまり吸血してる気配はなさそうだがな。
「そんなことどーでもいいから早く家ん中入ろうぜ。ハラ減ったんだけど」
 そんなアサカにため息をこぼすと、ヒルトは笑い。家へと駆け出す。
 まるで普通に過ごしてることに、なんだかおかしくなりながらも二人の後を追った。

2014/3/2



心がなくても、感じられるようになってしまうのはいいことなのか。






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