海に帰る
目が覚めると、波音さざめく海岸で呼吸をしていた。海岸で、呼吸?
慌てて自分の下半身を眺める、ない、ない、ない! なんで、ないんだ。
「なんで、足? があるんだ!」
感情の赴くままに舌を打つ。本当に最悪の気分だ、早く帰りたい。あいつに言ってやらないと気がすまない。
さっさと、戻ろう。地上なんて何が面白いのやら。にしても動きにくい、足というのはなんて使いにくいのだろう、二つに分かれてるだなんて。
「ねえ、君ってば何をしているの!」
そう言って、引き止められるだなんて思っても見なかった。ここは私がいるべき場所ではないというのに。
「邪魔しないでくださらないかしら」
「冬の寒い時期に海に入るなんて自殺行為だと思うのですが?」
「勝手にそう思っててくださいませ」
そう言って、私は彼を振り切ろうとする。しかしながら、彼は私の腕を離すきは毛頭ないようだ。
「失礼ながら婿殿、私は海の民故に陸ではなく住む場所である海へと戻りたいのだが」
「残念ながらご婦人の携える表情からは、自分の故郷へ帰るようには伺えませんが」
ああ、もう面倒臭い。半分はあんたの相手をしてるせいにきまっているだろう。残りはあいつに対するものであるけれど。
「そりゃあ、せっかく帰れるところを引き止められているからでしょう」
それでは、と今度こそ水の中へ飛び込む。二度と会うことのない人間にも出会えた、のはなんとも言えないのだけど。
「あいつ、絶対一発殴る」
そうでもしないと、この怒りは収まらない。
どうやって償わせようか。無意識に微笑みがこぼれた。
2014/1/21
海が大好きな人魚さんだっていいじゃない。