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迷子大量発生

「どうして、天使が命を奪うんだ!」
「それが、仕事だからに決まってんだろうが」
 怒りをぶつけてくる『人』に天使―金髪碧眼の白い翼を持った少年のように見える―はため息を付いた。
 本来、死後へと誘う役目を与えられているのは死神だ。しかしながら、今はなぜか自分たち天使まで駆りだされているという状況だ。
 そこにいるのは、男性だ、いや男性だったのであろう魂だ。背広をきっちりと着こなしているが、顔は怒りのために真っ赤になっている。
 天使たちが駆り出された仕事とは、すでに失われた身体に宿る魂を連れて行くことであった。そして、奪うわけではない、と何度も説明したのにこの態度だ。普通であれば、一時間は経過していたであろう。天使の方も声を荒らげたくもなるだろう。もともと、天使らしくは無いのだが。
「いい加減わかれよ、あんたは死んだの」
 そういうと、天使は男性の額のあたりに口づけをする。すると、男性は段々と消えていった。
「マジでない。本当になんでこんなこと、しなきゃいけねんだよ」
 気持ち悪い、とばかりに口を拭う。その姿は人が想像する天使とはあまりにもかけ離れているものだった。
「相変わらず、時間がかかっているようですね」
「悪いかよ」
 いえ、別に。と可笑しそうに笑いながら現れたのは、漆黒の髪と翼、それに切れ長の紅の瞳をした青年だった。その手には先ほどまでかけていたのであろう眼鏡が握られていた。優しすぎるその表情以外は彼の姿はまるで悪魔のようであった。
 悪魔は天使に向かって爽やかに言い放った。
「臨時収入なんですから稼がないとではありませんか」
 収入と言っても、人間が言う給料の類ではないのだろう。
「つってもよお」
「きちんと認めさせようとしてるから遅くなるのですよ」
 見ていてください、と言い残し悪魔は新たな魂へと声をかけに行った。
「あなたの魂を誘いに参りました」
 悪魔は女性―の魂―へと話しかける。女性はいきなり話しかけられたため、驚いたようだ。
「は、い、いきなり何を言っているの?」
「今あなたは夢の中にいるのです。そして、私は案内人です。どうか、私を信じてはいただけませんか?」
 女性はどうしてこんな場所にいるのかよく覚えていなかった。だからきっと、悪魔の言ってることが正しいと思ったのだろう。悪魔の発言に頷くと、目を閉じた。
「それでは、あなたをお連れいたしましょう」
 そういうと、悪魔は額に口付ける。女性は消えていく。
「ほら、簡単でしょう?」
 悪魔は天使の方を笑顔で振り返る。天使の方は呆れ顔だ。
「よくもまあ、簡単にそんな言葉が出てくるよな……」
「まあ、慣れていますからねえ」
 あなたもさっさと、身につけたほうが楽になると思いますよ?
 なんて、冗談めかして言ってはいるが目は笑っていない。
「納得して送り出してやりたいだろうが、最期なんだから」
 天使は睨みつけるように言う。さっきの方は納得しているようには見えませんでしたけど。という悪魔の言葉に、たまたまだ、と慌てて言い返す。
「コレが終わんなきゃ夜風を連れ帰るどころか、俺達が帰ることすら出来ねえんだからな」
 よし、やるぞ、と気合を入れる天使。そうですよ、あなたが効率よくすればもっと早く帰れるんですから、と悪魔は茶化すが天使は聞いていないようだった。
「せいぜい空回りしないでくださいよ」
 そういうと、悪魔は羽を使い、近くの魂の元へ降りていった。天使もまた同じように別の魂の元へ向かう。
 そんな中、言葉もなしに魂達へ鎌を振る者がいた。その顔はフードによって見えないが、灰色の翼を使い滑るように移動し、魂へ鎌を振り下ろしていくその姿は死神のようだった。実際死神なのだが。
「なんで、こんなにも?」
 小さくつぶやくも、その答えは返ってくることはない。
 死神は淡々と鎌を振り続ける。本当は魂はこんな所に大量に現れるはずがないのだ。ただそんな事を言っても仕方がない。実際ここに大量の魂があふれているのだから。考えるよりも、魂達をどうにかするのが先決だ。そのように死神は思った。



「やっと、片付いたか?」
「そのように思いますね」
 天使たちは仕事の終わりを感じた。そこに、灰色の死神がやってきた。
「すまない、ユウスイやアサカたちにまで手伝ってもらっていたとは」
 助かった、と頭を下げる死神に、困ったときはお互い様だろ、と天使は笑う。仕事ですから、と悪魔は言う。
「終わったんだし、さっさと帰ろうぜ。夕水、夜風」
 昼土が切れたら面倒だからな。と天使は二人を急かす。
二人はそれに同意し三人は揃って笑うと、自らが帰る場所へと飛び立った。

2013/12/8






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