SM二重奏
「んーっ…はぁ…」
小振りなマンションから出てため息を一つ。今日は仕事である。
「しかし内容が離婚うんぬんって…勘弁してくれよ…」
がっくりとうなだれて夜の街を闊歩する。鞄の中の六法が、どっしりと重く肩に響いた。
駅前の大通りに出ると、週末だからか人でごった返していた。人と人との間を縫うようにして街を駆ける。
イルミネーションを着飾った木々と共に過ぎ去っていくカップル達を見ながら<この中の半数は破局するだろう>と少し嫌味に思っていると−
「えっ、一枝っ!?」
不意に後ろから大きな声で呼び止められ、反射的に振り向いてしまう−が、一秒後には振り返ったことを後悔する。
「あ、やっぱり一枝だーっ」
「おまっ、峰岸!!何でここに!?」
ブンブンと手を振りながら嬉しそうに駆け寄って来るのは、認めたくないが私の元夫である。振り返らなければ…とも思ったが、振り返らなかったらなかったで喜ぶ奴だからな…
「外回りだったんだよ!一枝も仕事?相変わらずだね」
実際に会うのはいつぶりだろうか。
電話で強制的に声は聞かされているが、会ってみるとこう…当時と違うというか…
罵声を求めて来ないでヘラヘラと笑うこいつを、
「え、何?どうしたの?」
「あっ、いや…何でもない」
少し、ほんの少し…カッコイイと、思ってしまう自分がいた。
「っと、ごめん!急いでるんだった、また電話するからね!」
「していらん!とっとと行け!!−」
と、いつも通り怒鳴った瞬間にあいつは私の横を通り過ぎる、礼でも言われるのかと思ったら、耳元に口を当て至極真面目な低音で−
「言っておくけど、俺はまだ諦めたわけじゃないからね」
「なっ…!?」
振り返ると、かっこよかったあいつは何処へやら、いつものヘラヘラとした顔で手を振り走っていった。
頬が熱くなり、胸が高鳴る。
久しぶりのときめきを感じて、自分もあいつを捨てきれてないのだと実感した。
ふっ、と、あいつの残り香を感じ、胸が掻き乱される。
ああ、腹が立つ。
おまけ
「一枝姉さん…?どうした−」
「っさい!!再婚なんかしないからな!!」
「よくわからないが外で六法を振り回さないでくれ!!」
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ワーキングで一枝さんと峰岸さんのお話。
今でも割とお気に入り。
カッコイイ峰岸さんが書きたかっただけ
一枝さん口調迷子ちゃん。