魔弾 | ナノ

魔弾

コンビニを出ると、通りの向こうに思いがけない人がいた。
動揺のあまり中身が潰れそうになるぐらい袋が手の中でくしゃくしゃになる。
心音もどくどくと脈打ち、息が苦しい。
ああ、なんだって今頃、彼を見てしまったのか。
やっと薄れ掛けていた様々な記憶が昨日の事のように蘇ってくる。

最初はただの友達だったが、酔った勢いで一線を越えてしまった。
それから求め合う関係になった。
しかし、お互い「好きだ」「愛している」などと言葉を交わした事はない。
それで成り立っていたのだから。
そして半年前、些細な事が切っ掛けで彼と仲違いをしてしまった。
自分が全面的に悪いのだが、その時は謝る気が起きず、時は流れていった。
そして別々の道を歩き、現在に至る。

彼から離れてみて初めて分かった事があった。
自分は彼が大好きだった。愛していた。
だが、今さら気付いた所で時既に遅く、彼への想いは心の奥底にしまった。
なのに今こうして再び彼は自分の中に広がっていく。
胸が押し潰されそうだ。

彼の隣には連れがいた。
髪の長い綺麗な女の子だった。
眉目秀麗な彼は当時からとても人気があり、ひっきりなしに言い寄られていた。
その度に女のように嫉妬に駆られていた自分。彼と付き合っている訳でもないのに。
もちろんそれを口に出す事は無かったし、態度にも出さないようにしていた。
それで彼との関係が終わるのが嫌だったのだ。
結局は自分で終わらせてしまったのだが。

彼に気付かれないように通りを渡る。
数メートル先には懐かしい後ろ姿が目に入った。
後をつけるなんて女々しい事この上ない。だが、彼の姿をもう少し見ていたかった。
女の子に笑顔を見せながら喋っているようだ。
昔は自分だけに向けていた笑顔が今は違う人に向けられている。
そう思うと、一気に虚しさが増していく。
後をつけてどうするというのだ。声を掛けるのか?−否、そんな事できるはずもない。
こんな事している自分がどうにも悲しくなってきた。

ぼんやりと見つめていると、女の子が彼の腕に自分の腕を絡ませた。
その光景を見た途端、足元がぐらついた。三半規管がおかしくなりそうだ。
そういう関係なのかと思っていたが、いざ見せつけられると思った以上のダメージに驚く。
−もう、やめよう。
にじむ視界をそのままに、幸村はふらつく足で踵を返した。


組まれた腕を乱暴にふりほどく。
先程まで笑顔だったのが、今は冷たく蔑むようなものに変わっていた。
「消えろ。」
吐き捨てるように言った。
罪悪感なんて微塵も無かった。
そもそも向こうから声を掛けてきて、当てつけのために相手をしてやったのだ。
政宗は苛ついた足取りで呟く。

「・・・wimpが・・!」


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