執着 | ナノ

執着

「政宗殿、動かないでくだされ。」


蚊も殺さぬような優しげな顔で幸村は言った。
だが、表情はそうであっても、行っている事はまるで正反対だった。
幸村の目の前には、彼の好敵手である政宗が苦しげに肩で息をしている。
片目の眼光は鋭く、幸村を射抜きそうな程睨んでいた。
しかし、今の政宗にできるのはそれだけだった。
彼の右手と左足には幸村の二槍が深く突き刺さり、自身の後ろにある大木に縫いつけられているからだ。
左手も深い傷を負い、まともに動かす事もできない。
勝負は明らかについていた。
だが、幸村は一向に殺そうとはせずに、その状態の政宗を微笑みながら眺めているだけだった。
幸村の意図が分からず、政宗は焦れる。


「・・・おい、どういうつもりだ。」

「・・・・。」

「何故首を刎ねない?」

「・・・・。」


幸村は何も言わず、ただただ微笑んでいた。
その表情に得も言われぬ不気味さが垣間見え、政宗の額に嫌な汗が滲む。

「おい「な に ゆ え?」

幸村の口が弧を描く。

「何故殺さぬか・・・政宗殿はお分かりではないと?」

抑揚のない声を発する幸村は、今まで見たことない程に黒く染まっていた。
その変化に政宗の体温が冷えていく。
幸村は政宗の首をそっと掴み、耳元に口を寄せた。

「やっと貴殿をこの手で堕とせたのだ。誰が手放そう。」

耳に掛かる吐息に全身が総毛立つ。



「政宗殿・・・。好きなのです。この身が焦がれるほど好きなのです。」



情熱的な告白だが、この状況でそれを言うのは侮辱以外の何者でもない。
政宗は怒気の含んだ声で呟く。

「・・・・煩ぇ。」

その発言に驚いた幸村が、じっと政宗の顔を見る。
唾でも吐きかけてやろうかと政宗が思った瞬間、右手に激痛が走った。

「ぐあっ・・!」

堪らず声が漏れる。
何事かと見れば、幸村が右手に刺さった槍を回転させ、更に深く突き刺していた。

「て・・てめぇ・・・っ・・・。」
「某の話を聞いておりましたか?」
「HA・・!聞いて・・たぜ。この俺に、恋焦がれてるんだろ・・?」
「そうです。」
「それでこの仕打ちかよっ!!俺はさっさと殺せって言ってんだっ!!てめぇは好いた
相手に無様な姿をさせるのが趣味なっ、ぐっ!!」

政宗の言葉は最後まで続かなかった。
今度は左足の槍を回されていた。

「政宗殿は痛くされるのがお好きなようにみえる。」

前髪を掴まれ、無理矢理目線を合わせられる。


「・・・・そんな訳・・ねぇ・・だろうが・・・。」
「ならばあまり某を煽らないくだされ。」
「煽る・・・・だとっ・・・?」
「そのような顔で悪態を吐かれると逆効果、ということでござる。」
「・・・マジでcrazyだな・・・。」


幸村には政宗の言った南蛮語の意味は分からなかったが、容赦なく後頭部を木に打ち付けた。


「・・・!」


あまりの衝撃に声にならなかった。
そのまま意識が飛びそうになるのを必死に耐える。
幸村は政宗の頭を木に押し当てたまま、白く誘う首筋に舌を這わせた。

「政宗殿。知っておりますか?」
「・・・・」
「俺があなたをどれだけ好いているか。」

もう口を開くのも痛みが走るようになってきた。
無言の政宗をよそに幸村は続ける。

「妻女山でお会いした時からあなたの事が頭から離れなかった。それが単なる好敵手としてではなく、恋慕によるものだと気付くのは遅くはありませんでした。」

そこまで言うと、首を強く吸われる。

「それから毎夜毎夜、あなたの事を想い、自分を慰めておりました。」

首から唇をはずし、政宗の隻眼を覗き込む。
縦に伸びた瞳孔が小刻みに揺れている。

「だが、もうその必要は無くなった。」

瞬きもせず、一心に政宗を見つめる。


「やっとあなたを俺のものにできた。もう手放しはしない!」


そう言うやいなや、己の唇を乱暴に重ねた。
政宗は蹂躙する舌を噛み切ってやろうと歯を立てようとしたが、幸村に気道を強く掴まれうまくはいかなかった。
口端からどちらのものかもわからない唾液が幾重にも伝っていく。
お互い目も瞑らず、至近距離で視線がぶつかった。
幸村の瞳は欲に塗れ、政宗はすべてを喰らい尽くされるような錯覚になる。
口内を忙しなく動かされ、息つく暇も与えてはくれない。
政宗が苦しげに眉間に皺を寄せると、不意に唇が離れた。

「これはもういらぬな。」

幸村はそう言い放つと、政宗の眼帯を力任せに剥ぎ取った。

「何しやがるっ!!!」

政宗は怒りを露わに叫んだ。
体の至る所がひどく痛んだが、それを激昂が上回る。
誰にも見せたくない部分が己を蹂躙している相手によって晒された、という事が政宗の思考を狂わしていた。

「返せっ!!!返せっ!!!!」

政宗が動く度に刃が突き刺さった箇所から新たな血が噴き出す。
幸村は今にも噛みつきそうな程暴れる政宗の左頬に拳を叩きつけた。
政宗の鼻と口から血が飛び出し、幸村の頬に懸かる。
それを幸村はぬるり、と舐め取った。

「政宗殿の隠された部分はそのようになっておられたか・・・。」

幸村はぐったりしている政宗の頭を掴み上げ、間近で右目を覗き込む。
長年眼帯をしていたからか、目の周りは黒ずみ、所々に疱瘡の跡が残っていた。
眼球の中心は白く濁り、本来の機能を果たしていないようだった。
とても凝視できるようなものではないが、幸村はそうは思わなかった。
躊躇無く視力を失った目に舌を這わす。

「・・・・・!!!」

飛びかけていた意識が急激に浮上する。

「やはりお美しいですな、どこもかしこも・・・。ずっと愛でても飽きそうにない。」
「・・・・・や・・・・め・・ろ・・・・・。」
「やめる?何故に?こんな甘美な事を止められる訳がなかろう。」
「テメェ・・・!・・ぶっ殺・・すっ!!!」
「少々黙っていただこうか。」

幸村は身につけていた鉢巻きを外し、政宗の口にかませた。

「んぐっ?!」
「貴殿の美声が聞けぬのが少々惜しいが、致し方ない。それに、舌でも噛まれたら厄介ですからな。」

鉢巻きを固く結び、政宗の陣羽織に手をかける。
元の色が分からないぐらい血に染まり、赤黒くなったそれを力任せに引き千切った。


「さあ、楽しみましょうぞ。政宗殿。」


破れた布が風に乗って舞っていく。
政宗は現実から逃れるようにそれを目で追った。
まるで自分のようだとぼやける思考の中で思う。

「政宗殿。」

顎を掴まれ、無理矢理目線を合わせられる。

「どこを見ておられる?」
「・・・・。」

「貴殿は俺だけを見ていればいいのだ。他のものを見るなんて許さぬ。」

ひどく冷えた声で幸村はそう言い放った。
無言の政宗をよそに幸村は甲冑に手を掛け、乱暴に取り去っていく。
やがて、目の前に政宗の肌が晒される。

「ほぉ・・・・。」

その美しさに思わず感嘆の声が漏れ出た。
そっとその胸に触れてみる。

「う”う!」

「触るな」と言いたげな目で政宗は見上げるが、それさえも幸村の中で快感と変わり、ぞくぞくと背中を駆ける。
触れた箇所は想像以上の肌触りであり、冷えた体温が妙に心地よい。

「真にすばらしい・・・っ!」

ひどく興奮した幸村は素早く下帯から自身を取り出し、政宗の片足を無理矢理上げる。

「?!!」

あらぬ所からの激痛に政宗は声にならない声を上げた。
幸村が一気に政宗の中に突き入れたのだ。
そして容赦なく激しい律動をする。

「ぐう”う”ぅ”!」

内部から引き裂かれるような激しい痛みに、政宗の隻眼からは生理的な液体が流れる。
同時に胃の中から迫り上がってくるものがあった。
我慢する余裕など微塵もなく、それを吐き出す。


「う”ぅげぇぇぇっ・・・げぼっげぇぇ”ぇぇぇ”っ・・!」


吐いたものは政宗と幸村の腹に溜まり、悪臭を放つ。

「泣いて吐くほど良いのでござるか?」

政宗がした行動をさして気にもせず、幸村は激しく動き続けていた。

「がはっ・・・う”ぅ”・・・。んぐっ?!」

突然顎を掴まれ、口を吸われる。
まだ吐ききれていないものが幸村の口に入ってきた。

「んぅ・・・む・・・。」

一切の躊躇無く、喉を鳴らしながら政宗の嘔吐物を呑み込んだ。

「う”う”っごぼっ・・・!」

もう吐くものがないのか、苦しげにむせる政宗から口を離す。
お互いの唇からは粘着力のある糸が伸びていた。幸村はそれを舌で器用に舐め取る。

「馳走になり申した。ほんに政宗殿はどこもかしこも美味でござるなぁ・・・。」

「・・・う”・・・。」

「もっと政宗殿と戯れたいのでござるが・・・・そうお可愛いらしい姿を見せられると某、我慢できませぬ。」

幸村は政宗の肩を強く掴むと、今までと比べものにならないくらい激しく動き出した。

「ぐあぁぁぁっ!!!」

あらゆる傷口から血が噴き出し、あまりの激痛に耐えられず政宗は叫ぶ。
その姿に幸村の限界が一気に近付いた。

「たんと味わえ。」
「あ”ぁ”ぁぁ!!!」

最後の一突きで幸村は政宗の最奥に吐精した。
何度かゆっくり出し入れし、政宗から自身を引き抜く。2人の足下にぼたぼたと薄紅色の液体が落ちた。

「んぐっ・・・ううっ・・・。」

項垂れる政宗の髪を掴み、上を向かせる。
その顔は様々なもので汚れ、かつて独眼竜と呼ばれていた武人の威光はどこにも無かった。
弱りきった竜の姿に再び幸村の欲情に火が灯される。

「政宗殿。」

「・・・・・。」

「愛しております。」

「・・・・・・・・・・。」

「生涯俺の側にいてくだされ。」

幸村は微笑みながらそう言うと、政宗の首筋に歯を立てた。


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