決着 | ナノ

決着

腹部に熱い衝撃が走る。
己が渾身の力を込めて放った一撃は躱され、刀の切っ先が相手の頬を掠めただけだった。
攻撃特化で打って出たので防御も回避もできず、脇腹に鋭い槍が突き刺さった。
流石は自分が認めた好敵手だ。身につけていた防具を破り、腹を抉ったのだ。
鮮血が足下にぱたぱたと落ちていく。

「Goodだ・・・。真田・・幸・・・村・・・。」

槍の主・真田幸村は崩れゆく竜の姿をただじっと見つめいていた。
政宗の握力は急激に無くなり、六(りゅう)の刀は一振り、また一振りと地に落ちていく。
やがて立っているのもままならなくなり、政宗は膝から崩れ落ちていった。
「・・・・・政宗殿・・。」
幸村は倒れた政宗の場所までゆっくりと歩いていく。
近付くにつれひゅう、ひゅうと弱々しい息遣いが聞こえてきた。己が抉った腹を見ると、中の臓物が見える。これでは助からないだろう。
顔の近くまで歩くと、幸村は膝をついた。政宗の隻眼がゆっくりと幸村のほうに向けられる。
「HA・・・・なんだよ・・・。アンタ・・・。」
政宗はいつものような口ぶりで言葉を発するが、その声は掠れていた。

「なんで・・・泣いている・・・・。」

そう言われ幸村はハッとする。
頬に涙が流れていた。その涙は止まることなく、政宗の頬に落ち、濡らしていく。
悲しい。無情に悲しい。
好敵手の決着をお互い望み、いつかどちらかが倒れることは明白だった。
なのに、なぜこうも悲しいのだ。
幸村は混乱した。
この気持ちは何なのか分からない。自分は取り返しのつかないことをしてしまったのではないか。
すると、すっと頬に何かが触れる。
それは政宗の手だった。

「そんな・・・顔・・・すんなよ・・・。」

優しく微笑む政宗に幸村はこの感情が何か悟った。

自分は政宗に惚れていた。
こんなにも焦がれていたのだ。
だが気付くのが遅すぎた。
自分が初めて惚れた相手は今にも命の火が消えようとしている。

「・・・・・・っ・・・・!!!」
声を上げて泣くのを必死に幸村は堪える。
後から後から後悔の念が押し寄せてきた。だが、もうどうすることもできない。
「真田幸村・・・・・・。」
不意に政宗が口を開く。
ついと幸村は政宗のほうを見た。

「ガキの頃から・・・痛みには慣れてたが・・・。さすがに・・堪えようがねぇ・・。」
「だから・・・。」



「止めを刺してくれ。」


「・・・・・・・・。」


沈黙が走る。
幸村は一瞬迷った。が、せめて政宗の苦しみを早く取り除いてあげたいと思った。
「・・・承知いたした。」
近くに刺さっている景秀を握りしめる。
「首級・・は・・・アンタに・・くれてやる・・・・。」
喉元に刀の切っ先を突きつけた。
「政宗殿。」
幸村の声に政宗は閉じかけた目蓋を開け、ゆっくりとこちらを見る。


「貴殿をいつまでもお慕い申しております。」


隻眼が僅かに揺らいだ。

幸村は躊躇うことなく刀を政宗の喉に突き刺した。
こぽこぽと傷口から空気が漏れる。
政宗は静かに眼を閉じていき、何かを呟いた。

「       」

そして動かなくなった。
幸村はまだ暖かい政宗の頬を優しく撫でる。


「ええ。来世にてまた・・・。」

泰平の世に再び相まみえる事を夢見てー。


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