第二話

誰かに呼ばれたような気がして、幸村は閉じていた瞼をうっすら開ける。
まず目に飛び込んだのは円い形で光を放つ物体だった。

(・・・なんと面妖な)

眩しさに目をしかめながら数回瞬きをする。
すると横から声が聞こえた。

「Good morning.」

その声は低く、美しい。幸村が夢中になる声だ。
横を向くと愛しい人・政宗の顔が目に映る。

「それがし・・・・」

そこまで言ってふと止まる。

気のせいだろうか。
目の前にいる彼の顔がやけに大きく見える。
それに今しがた出した己の声。妙に高い。
不思議な気持ちで目の前に自分の手を持ってきてみる。

「・・・・・な・・・・?!」


――――信じられなかった。

幸村の瞳が映し出した手は、小さいもみじのような手だった。
それはまるで童の手。
目の前の光景が理解できず、今度はがばっと勢いよく飛び起きた。
そして両手、胸、腹、足と確認する。
小さい!なんだこの手足は!!
あんなに鍛えた筋肉は見る影もないっ!!!

「なんという・・・こと・・・だ・・・・」

ぽんっと出た腹を触りながら出す声も幼い。

「くくっ・・・」

呆然とする幸村をよそに政宗はとうとう堪えきれず笑い声を漏らした。

「ハハハハッ!!!」
「なっ!!わらいごとではござらぬっ!!!」

今にも泣き出しそうな(実際には涙を浮かべている)顔で幸村は政宗を睨む。

「いや、だってよ、おもしれー宇宙人だなと思ってよ〜。」

若干こちらも違う種類の涙を浮かべながらこう言った。
何やら聞き慣れない言葉に幸村は反復する。

「・・・・うちゅう・・じん・・・・?」
「違うのか?じゃあー怪物?それとも幽霊か??」
「それがしはもののけでもゆうれいでもござらんっ!!!」

まったく見当違いの答えを出してくる政宗に、幸村は掛けられた布団を掴みながら必死に声を張り上げた。

「Oh〜・・・じゃあ何だってんだよ。いきなり人ん家に入り込んでいるかと思えば急にガキになっちまうしよ。奇想天外過ぎて訳分かんねぇ。」
「そ、それは・・なぜそうなってしまったのかそれがしにはかいもくけんとうもつかぬ・・・。だが、それがしはれっきとした”ひと”であることはしんじていただきたい!」

そう告げた幸村の言葉は、不思議と嘘偽りないように政宗には思えた。


「・・・分かったよ。アンタは”人”なんだな。」

大きく何回も頷く幸村に政宗は柔らかく笑った。

「じゃあ名前ぐらいあるよな?」
「・・・・・?」
「な・ま・え。無ぇのか?」

(政宗殿・・・ではないのか?)
幸村の知っている伊達政宗と瓜二つの姿。
しかし、この場所もそうだが政宗らしき男が身に付けている物も初めて目にするものだった。
着物とは違い隙間があまりない。
それに眼帯も刀の鍔ではなく、小さな白い布だった。

「なんだ、忘れちまったのか。」
「・・・・いえ、なはありまする。」
「なんていうんだ?」

一呼吸置いて口を開く。


「・・・さなだゆきむらともうします。」


幸村は不安気な顔で己の名を呟いた。
すると政宗はにっと笑うと幸村の頭を少し乱暴に撫でた。

「Good boy.幸村、な。」

急に触れられた事に幸村は心臓がどくん、と波打った。
布団をこれでもか、とぐっと強く掴む。

「幸村、行くアテはあんのか?」
「いえ・・・・、まずおのれがなぜここにいるのかさえわからぬのでござる。」
「Hmm・・・そうか。」

政宗は一つきりの瞳で幸村をじっと見つめた。
さっきまで自分と同じぐらいの背格好だったのに、どういう仕掛けか知らないが今は見る影もない。
とてつもなく怪しい男だが、どうにも気になって仕方がなかった。
遠い昔に会ったような−。懐かしいような感じがするのだ。
このまま追い出したら後々喉に小骨が引っ掛かったような感覚に陥るに違いない。
そんなのは気持ち悪くて堪らないはずだ。
政宗は頭に浮かんだ名案を口に出す。


「なら、しばらくここにいろよ。」
「?!」


幸村の瞳が驚きで大きく見開く。

「正直アンタに興味が湧いてきた。ガキ、つーか大人か?・・・まぁ人一人養うぐらいの余裕はある。それに、最近退屈してたしな。」
「・・・・それがしがきでんのしげきになると?」
「Yes.悪い話じゃないと思うぜ。どうだ?」

幸村はしばらく思案するような表情を見せたが、手を付き深々と頭を下げた。

「きでんのごこうい・・・いたみいります。」

その姿を見て、政宗は小さく笑った。

「そのナリでそんな事やられると、なんか罪悪感に駆られるな。」

頭を上げた幸村の髪を少し優しくわさわさと撫でた。

「ガキなんざまっぴら御免だが・・・アンタといると不思議と退屈せずにすみそうだぜ。」
「・・・・なにやらふくざつなきもちでござる。」

幸村は困ったような笑顔を政宗に向けた。
すると政宗は思い出したように言う。

「・・・と、俺の名前言ってなかったな。俺は政宗。伊達政宗だ。」

(政宗殿と同じ名?!)

「上でも下でも好きに呼びな。」

やはり自分の知っている政宗と何か関係があるのだろうか。
幸村の拳に少し力が入る。
しかしこの事を口に出す気は起きなかった。何となくだが。

「では・・・”まさむねどの”とおよびいたします。」
「”どの”って・・・・まぁいいか。」

政宗は立ち上がり、部屋の扉に歩いていった。

「ど、どちらへ?!」

少し慌てたように幸村が声を掛ける。

「あったかいもん持ってきてやるよ。冷えてきたしな。」

そう言うと政宗は部屋から出て行った。
一人残された幸村はぽつりと呟いた。


「まさむねどの・・・すがたかたち、くちょうもきでんとうりふたつでござる・・。」


窓に浮かぶ三日月がひどく懐かしいような感じがした。

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