幸村追悼文

いつぶりにアンタに会ったのだろう。

色々な事が起き、俺が怒りに身を任せている間、アンタはまた遠くなっちまった。
よりにもよって石田と同盟とはな。
つくづく俺達は敵対する運命らしい。
まぁそのお陰でアンタの暑っ苦しい炎にありつける。
だがそれもまだお預けみてぇだ。

「真田幸村!!」
「っと、政宗殿?!」

俺は眼帯を幸村に投げつけた。
アンタの驚いた顔。
悪くない。

「presentだ。」
「ぷ、ぷれ?」
「いや、間違えた。それはアンタに預けておく。」

幸村は眼帯と俺の顔を交互に見ている。
アンタも鈍感だよな。
俺が人前でそいつを外すなんて絶対にありえねぇのに。

「おそらくアンタと今度会うのは最後の戦場だろう。」
「・・・某もそう感じております。」
「その時にそれは返してもらう。だから・・・それまで・・・絶対に他の奴に・・・・殺られるな。」
「・・・政宗殿・・・。」

それ以外にも意味はあるんだが、アンタは分からなくていい。
でもその意味を知ったら、アンタはどんな顔するんだろうな。

俺が下を向いて笑っていると、幸村の足が視界に入ってきた。
顔を上げると予想以上に顔が近くにあり、柄にも無く俺の心臓が跳ね上がった。
本当に柄にも無ぇ。

「では某にも約束してくだされ。」

幸村はそう言うと、俺の手を取り何かを置いた。
見ると、それは幸村がいつも身につけていた六文銭の首飾りだった。

「再び相見えるその日までご無事である、と。」

幸村の燃えるようで真っ直ぐな赤い瞳、綴られる言葉、籠手からでも伝わる熱が俺の心を乱す。
アンタは素でやってるんだろうな。
まったくタチが悪ぃ。
俺は自分の心情を悟られまいと、急いで手を引っ込めた。

「Goddamn・・・!・・チッ・・・分かったよ。」

俺はそのまま後ろを向き、さっさとこの居心地の悪いこの場から立ち去ろうとした。
「政宗殿?」
「じゃあな。真田幸村。アンタと戦れるのを楽しみにしているぜ。」
俺の口から出た言葉はこんな感じだが、顔に熱が集中しているのが分かった。
幸村からは俺の顔は見えていないが、後に控えていた小十郎にはまる見えだ。
案の定、小十郎は訝しげな顔をしている。
それでも幸村に見られるより百倍マシだ。

「承知いたした。この幸村、政宗殿の眼帯を必ずや貴殿に届けてみせましょうぞ!」

だからアンタは暑っ苦しいんだ。
けどそれを喜んでいる俺もてんでCoolじゃねぇ。
俺はひらひらと手を挙げ、上田城を後にした。


この時は幸村と最後の決着が迎えられると信じていた。
なのにアンタは−。


突然の知らせだった。
俺は耳を疑った。
幸村・・・何故だ・・・。
「真田隊は徳川殿の本陣に切り込みに入り、撃破された模様。」

アンタ、なんでそんな所にいやがる。
俺の前の陣にいるんじゃなかったのか。

「・・・家康は無事なのか?」
「はっ。ご無事と。」
「分かった。下がれ。」


視力を失った右目にズキズキと痛みが走る。
俺はたまらず手で覆った。

あいつは約束を違える男じゃない事は分かっている。
そうか・・・そこまで追い詰められていたんだな。
俺は懐に入れておいた六文銭を取り出し、片目しかない目でじっと見つめた。

「俺以外の奴に殺られるなんてな・・・。興醒めだぜ。」

六文銭がぶつかる音がひどく耳に痛かった。


夜が更け、陣地内の部下達は寝静まっていた。
俺は到底眠れるはずもなく、松明の下で一人座っている。
真田幸村−。
唯一のrivalだと決めた相手。
そして俺の・・・。

不意に場の空気が変わった。
俺は腰の刀に手を掛ける。

「・・・Hey、出てきな。」

暗闇に目を凝らす。
すると見慣れた真っ赤な具足が視界に飛び込んできた。
そいつは今日徳川陣で討ち取られたと聞いた真田幸村だった。


俺は幻覚を見ているのか。
それともこいつは偽物か。
はたまた亡霊か。

「政宗殿・・・。」

そいつは俺の名前を呼んだ。
声も幸村そっくりだ。
ますます訳が分からなくなってきた。

「政宗殿・・・。」

一歩、一歩とゆっくりこちらに近付いてくる。
こいつが何者か分からない。
だが、俺は微かな喜びを感じていた。
幸村の姿で、幸村の声で俺の名前を呼んでいる。
マジでどうかしている。
俺は刀に手を添えたまま、動けずにいた。

「まことに申し訳ござらん。」
「What・・・?」

そいつは俺に右手を差し出してきた。
何かと思い視線を向けると、俺が幸村に預けたはずの眼帯があった。

「・・・・本当に・・・真田・・幸村なのか・・・?」
「はい。」
「アンタ・・家康に討ち取られたんだろ?」
「・・・はい。しかし・・・この身が滅びた今、政宗殿に如何しても謝りたく・・・。また、伝えたき事がある故、こうして馳せ参じました。」

幸村は俺の手をそっと取り、手の平に眼帯を置いた。

「政宗殿との約束を破ってしまい、まことに申し訳ござらん。」
「・・・アンタはそれだけ切羽詰まってたんだろ・・・?」

こんな混沌とした戦ばかりの世で、いつ誰に殺されてもおかしくない。
死ぬな、なんて約束を守れと言うほうが無理があるだろう。
そんな事は分かっていた。
だが、幸村が他の奴に殺されるなんてどうしても我慢ならなかった。
俺はどこまで女々しいんだ。
ほとほと自分の嫉妬深さに嫌気がさす。

「なれど・・・やはり約束は約束でござる。政宗殿は守られたのに某は破ってしまったのは事実。」

やめろ。
そんなに真っ直ぐな言葉を俺に掛けるな。
アンタを・・・。
アンタを離したくなくなる。


「政宗殿、御免。」
「!?」

幸村はそう言いながら、俺をきつく抱きしめた。
痛いほどの抱擁を全身に感じる。

「ああ・・・政宗殿・・。最後に伝えたい事があります。」
「幸・・・村・・・・っ。」



「貴殿をずっと・・・お慕いしておりました・・・。」



−そうか。
幸村は俺と同じ気持ちだったのか。
込み上げる想いに耐えきれず、急激に視界が霞んでくる。

「馬鹿野郎・・・。今さら遅ぇんだよ・・・。」

俺は泣いているのか・・・?
頬に生暖かいものが次々に伝っていった。
それを幸村がそっと指で拭う。

「それだけをお伝えしておきたくて・・・。」

幸村は寂しそうな笑顔を浮かべながらそう言った。
懐の中の六文銭がちゃりんと鳴る。

「幸村・・・・これ・・・。」

俺は懐から六文銭を出し、幸村に渡そうとした。
だが幸村はゆっくり顔を横に振った。

「それは政宗殿が持っていてくだされ。」
「何・・・?」

幸村は六文銭を手に取り、俺の首に掛けた。


「いつも近くに感じられますよう。」


幸村はそう言うと、俺の唇にkissをした。





気が付くと、幸村の姿は無く、俺は松明の下に座っていた。

「・・・夢か・・・?」


まだぼうっとする頭に手をあてようとすると、何かがぱさりと地面に落ちた。

それは幸村に預けたはずの眼帯だった。
じゃあ、さっきのは−。


落ちた眼帯を取ろうと屈むと首元でチャリンと音がする。



『いつも近くで感じられますよう。』



幸村が言った言葉を思い出し、六紋銭を強く握った。



「本当にズリぃよな。」

アンタと重ねた唇がまだ熱かった。

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