「ラット…」
服をはだけさせて、甘い声で自分の名前を呼ぶ。
「…アクミ」
思わず手を伸ばす。
そして次に見えたのは自分の部屋の天井。
カーテンの隙間から朝の陽ざしがさす。
目覚ましの音で一気に現実へと戻された。
「なんつー夢だよ…」
隣を見てもアクミの姿はもちろんいない。
そして下半身に感じる違和感――
「最悪……」
ため息交じりに下半身を見た。
ズボンの上からでも勃っている自身がわかった。
罪悪感や羞恥からか、好きな相手で自慰行為をするのが嫌だったのに。
「くそっ…」
ため息が漏れながらも、ティッシュを手繰り寄せた。
朝食をとりつつ、ラットはあることを思い出した。
「…まてよ、今日って…」
不運にも今日はアクミと待ち合わせすることになっていた。
顔を合わせにくいとはいえ、休むのも怪しまれる。
「行くしかないか」
夢は忘れろ。そう自分に言い聞かせながらコーヒーを飲み干した。
***
「遅い!遅刻だぞー!」
「あぁ。悪いな…」
行きづらさからか十分程待ち合わせに遅れて来た。
夢も忘れようとすればする程、印象深く残ってしまった。
「新作のキャラメルタルト売切れてたらどうするんだよ!」
「悪かったって。詫びにおごるから」
「別にそこまでする必要ないけどさー」
アクミと極力会話をしないよう、ラットはいつも以上に話をしなかった。
「ラット、あの……怒ってるのか?」
「いや、怒ってない」
流石にアクミも怪しいと思ったらしい。
だからと言って素直に言うこともできない。
「それならいいんだけど…。何かあったらアタイに言えよ?
…その、仲間なんだし……」
アクミも恥ずかしいのか最後の方は声が小さくなる。
「大丈夫だって」
落ち着いた声で返した。
夢では淫らに乱れていたが今は純粋に心配していて。
そんな夢を見た自分に嫌悪感が増す。
再び歩き出したアクミの後ろで本日何度目かのため息が漏れた。
-END-