この恋が美しいものであればよかったのに、と何度かおもったことがある。
暗い寝室で目を覚ましたわたしは隣に視線を移す。まるで狐のように弧を描いた瞳が開かれて、わたしを見た。
「…起こした?」
「ウウン。僕も偶然起きちゃった」
「そっか」
わたしは静かにベッドから降りると、ソファに掛けられている衣服を手にした。ヒソカはベッドにまだ寝転んだまま、おそらくこちらを見ている。部屋が暗くて、わからないけれど。

寝室に入る前の状態に戻ったわたしはベッドに腰掛けて、まだ寝転んだままのヒソカにそっと触れた。
「帰るから」
「ウン」
「じゃあね」
ぎし、とベッドが軋む。お別れのキス? 玄関まで見送る? そんなものはないし、必要ない。肌寒い夜に互いの温もりがあれば良いだけで、目が覚めて仕舞えば甘い夢のようだった時間は冷たい泥沼に変わってしまう。
ずっと昔に見たお伽話では、主人公は幸せになっていた。どんなに惨めでも、必ず最後は報われていた。だけれど、わたしはどんなにもがいても報われることはない。彼が振り向くことも、微笑み掛けて甘い言葉を囁くことも、真の意味では一生ない。
わたしは、誰の人生を生きているのだろうか。
小さな頃、自分が生きている人生で、自分は主人公なのだと信じていた。最後には幸せになれると、報われるものだと信じていた。だけれど、どうだろうか。蓋を開けてみればなにもない。幸せも喜びも待っていない、この人生は誰のものなのだろうか。わたしが主人公になれる人生は、どこかに落ちているのだろうか。


Quis est iste est vita?
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