頬を撫でる手が酷く優しくて、目が覚めた。ずきんずきんと痛む左頬に触れていたレオリオが「すまねえ」と小さな声で謝る。
「起こしたか」
「……平気」
彼の膝の上に乗せていた頭を上げて、そのままお尻をずらして膝の間に座り込みながらレオリオの手に触る。
「大きい手」
「そりゃ、男だからな」
「うん」
重ねてみれば、大きさは一目瞭然で、少しごつごつした男らしい手にきゅう、と胸が鳴る。負けじと私の手も、お世辞にも女の手とは言えないくらい傷だらけだけど、レオリオがこうやって握りしめてくれているときだけは、華奢な少女になれた気がする。年相応の、美しい手に。
「勉強は順調?」
「ああ」
「良かった」
「ナマエこそ、修行は順調なのか」
レオリオの指と指の間に、自分の指を絡ませる。ひんやりした手が気持ちよくてつい、いつも彼の手で遊んでしまう。レオリオの質問に答えないまま私は上を向くと、覗き込むようにしていたレオリオがそっとキスをする。
「……順調だよ。頬の傷ももうそんなに痛くないし」
「そうかよ」
「レオリオがすぐ手当してくれるおかげだね」
「……そうかよ」
後ろから抱きしめられる。レオリオがなにか言いたくて、だけど言えないときいつもこうするのを知っている。「どうしたの?」と尋ねると、小さな声でレオリオは「すまねえ」とまた謝った。
「なんで、謝るの」
「俺は、お前に怪我してほしくないって思ってる」
「うん」
「だけど、それはお前の夢を本気で応援できてないってことだから、だから、……すまねえ」
消え入りそうな声だった。傷だらけで、女なのに腹筋は割れてて、握力だって強いし、一発二発殴られたぐらいじゃ倒れない。傷だらけの体を優しく撫でてくれるのはレオリオだけなのだ。だから、だから謝らないでほしかった。
「殴られることが普通になってるお前を見るのが、辛い」
「……ごめん」
普通の女の子だったら、きっと殴られたら泣いてしまう。怪我なんて極力しない生活を送る。スリムでも筋肉がついていないからやわらかい肉がついていて、指は白くて綺麗なのだ。爪には、流行りの色を乗せて。
生傷も痣も絶えることのない私はそんな生活とは程遠いところにいる。選んだのも進んでいるのも自分で、後悔なんてしていないけれど、だけど、だけど、好きな人にこんな苦しそうな顔をさせてしまうことなのか、そう思って私は少しだけ悲しくなった。
「背中の傷、痛くねえか」
「……見たの?」
「シャツに、血が染みてたから」
「…そっか。平気だよ」
ズキズキと傷が痛む。左頬? それとも背中の傷? それとも、胸の内? わからないまま私は目を瞑る。少しだけ夢を見ていたいから。
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