彼女の左目の上には痣がある。生まれつきものらしくて、女の子なのに可哀想だよねとよくみんなが言っていた。女の子は見た目が命だから、誰かがそう言ったとき、ナマエは変わらずいつもと同じ笑顔でへらへらしていたけれど、俺はなんとなく、「ああ、壊れた」と思った。気のせいかもしれないけれど。確かにナマエの心が砕け散る音が聞こえた。
それから、ナマエはあまり俺らのところに顔を出さなくなった。特に誰も気にしなかった。ウマが合わないやつから離れていったし、ナマエもそうだと、みんなは恐らくそう思ったのだろう。
残った奴らで流星街(ここ)を出よう、そんな話をした次の日のことだったと思う。よく晴れた日だった。晴れていても淀んだ空気や塵や埃のせいで、空は曇っているけれど。それでも太陽の光がキラリと落ちているガラスに反射していた。久しぶりに、ナマエを見たのだ。すぐには気づかなかった。だって、左目の上の痣が消えていたから。成長とともに消えた、と言うよりかはキレイになくなっていた。
「ナマエ?」
思わず声をかける。どこかで死んだのだと思っていた。でもやっぱり、どこかで生きているとも思っていた。ナマエは、やけに綺麗な服を着ていた。流星街を一度でも出た、ということは一目瞭然で、俺を見たとき確かに勝ち誇ったようにナマエは笑みを見せた。
「シャル。久しぶり」
「本当に。ここを出たの?」
「まあね」
「じゃあなんでまたここに?」
「正確には、正式にここを離れてるわけじゃないの。仕事をするために外に出ることはあったけど」
「そっか」
「そうなの」
化粧だと気づいた。ナマエの痣はまだそこにあるのだ。そのことにひどく安堵したような、胸がざわつくような、妙な感じを覚えながら俺は取り敢えず笑うことにした。ここで痣のことに触れるのは、いかがなものか。そう思いながらも俺の口は滑り落ちるようにして「あざ」と発していた。
「あ、ごめん。キレイになくなってたから」
「嘘ばっかり。化粧って気づいてるくせに」
ナマエの顔が醜く歪む。嘲るようにはっ、と息を吐きだして、ナマエは眉間の間の皺を濃くした。まだ、少女の表情(かお)に、不釣り合いなほど濃い化粧に俺は瞬きをする。
「ごめん」
「良いの」
お世辞にも、良いの、とは思っていない表情でナマエは笑った。太陽がジリジリと俺の背中を照らして、汗が伝う。こんなに暑いのに、ナマエはどうしてか一つも汗をかいていなかった。
「行くから」
ナマエの後ろ姿を見つめながら、俺はぼんやりと考え事をしていた。ナマエのことを。痣のない、ナマエ。ある、ナマエ。どちらもナマエであるのに、どうしてか本人はない方の自分が好きらしい。
まあ、そりゃそうか。あんなに小さいときから見た目のことで色々と悪く言われていれば、そうなるものか。ふんふんと頷きながらも俺はナマエの顔を思い出していた。幼い顔立ちに似合わない真っ赤な口紅が強烈で、俺は結局肝心のナマエはあまり思い出せなかった。
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