揺れて落ちて、揺れて、落ちる。
繰り返すように瞬くとまた両の目から雫が垂れた。ずっと好きだった人を刺し殺してしまった夜、私は逃げることにした。家からも、自分からも、何もかも捨ててどこか遠くへ行ってしまいたかった。私は人でなしだ。好きな人を殺した。ごめんねを繰り返すよりも早く私は逃げたのだ。
「しにたい」
もう、逃げるよりもそれが本音だった。
「じゃあ、殺してあげようか」
曲がり角から出てきたのは不思議な姿をした少年だった。見るからに、強い。貼り付けたような笑みを浮かべたまま私に近づく。
「やだなぁ、逃げないでおくれよ。死にたいんだろ?」
死にたいと漏らしたくせに後ずさりをした私をせせら笑うように、彼の手からトランプが飛んだ。

「君、しぶといね」
「訓練、してたから」
「ふうん」
でも、もう終わりだね。行き止まりに追い込まれ私は傷だらけだった。勿論、彼もだったが。
「最後に聞いてもいい?」
「なに?」
「なんで死にたいの?」
ぴたりと時間が止まる。泣いているような、笑っているような彼の顔を思い出す。「大丈夫だよ」「ごめんね」何が大丈夫なのかも、何がごめんねなのかもよくわからなかった。泣きじゃくる私の頬を撫でて彼はそのまま逝った。彼は、あまりにも弱すぎた。
「好きな人を、殺したの」
「酷いやつだね、君」
「……わかってるわ」
「だから死にたかったの?」
男は私の背後の壁に手をついて顔を近づけた。肯定も否定もしなかった。頷くのも首を振るのも面倒だった。明日になれば全部が嘘だった、とやり直せればいいのに。全部、夢だったらいいのに。
「殺せないくらい強いやつを好きになればいい」
「どういうこと」
「だから僕にしなよってこと」
「は…?」
そのまま彼に強引に唇を奪われる。鉄の味がするキス。苦しくて気持ち悪くて、引き剥がそうと強く胸板を押してみても、持っていたナイフで切りつけても彼は動かなかった。だれけど、あの人を殺して、喪って、生きづらい世界よりかは幾分楽にも思えた。
「堕ちるなら、もっと深いところにしときなよ」
にこりと笑ったその悪魔の顔を、私は忘れない。
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