私はただ誰かに愛されてくて、仕方がなかった。
物心ついたときには自分はこの家には要らない人間だときづいてた。出来のいい兄と、容姿の美しい妹。私には何もなくて、兄の器用さも妹にはある長い睫毛も、私には、なかった。
「家を出ていくそうだな」
「はい。お父様。これ迄出来の悪いわたくしを支援してくださり、ありがとうございました」
だから最後の賭けだった。ハンター試験なんて、受けたら死ぬことはわかっていた。例えどんなに出来の悪い娘でも死ぬことはないと、止めてもらえるかもしれないと、密かに願っていた。引き留めてくれ、ここにいろと言ってほしい。愛がなくても心がなくても、嘘でもいいからその言葉が欲しかった。
だけれど、父の返事は違った。心底鬱陶しいような顔で「そうか」。ただ、この一言だけだった。私はそこで全てをさとりそして全てを捨てた。名も、家も、私には最初からあったようでなかったのだ。誰からも必要とされず、誰からも愛されず、誰からも名前を呼んでもらえなかった私はあの日、死んだのだ。

情事が終わる頃には空は明るい。セックスのあと必ず煙草を吸うクロロは徐ろに呟いた。
「そういえば」
「なに?」
「ナマエのファミリーネームはなんだったかな、と思って」
「どうしたの? 急に」
私はクロロの方を向きながら起き上がる。煙草の先が彼が息を吸うたびに赤くちりりと燃えるのを見つめながら彼の質問の意図を探る。
「いや。特に意味はないんだ。育ちは良かったと、昔言っていたから」
「ああ、そういうこと。別に世間に名を馳せるような名家じゃなかったよ。ただそこらで一番家が大きかっただけ」
「そうか」
「そうよ」
締め切ったはずのカーテンからぼんやりとした明かりがさしこんでいた。朝はまだ来ないけれど、もう夜ではない。彼が灰皿に煙草を押し付けると、名前を呼ばれた。
「ナマエ」
そのままキスをされる。煙草を吸ったあとのキスは苦くて好きじゃないけれど、彼は私を吸い尽くすように深く深く口づける。自然と絡まる指に火照る身体を無理矢理引き剥がして私はクロロに向き直った。
「ちょっと、もうだめ」
「わかってる、少しじゃれただけだろ」
「クロロの少しは少しじゃない」
「ナマエ」
また甘い声で名前を呼ばれる。この瞬間が恐らく一番私は好きだ。彼に求められることも勿論嬉しい。肌を重ねて愛をつぶやかれるのもたまらない。けれど、彼が心から思ってする行動はきっと私の名を呼ぶことしかない。私を呼ぶため、私と会話するため、こちらに向かせるため、ただその目的のためだけの手段でも、意味が籠もった実のある彼の行動が愛おしくて心を満たす。
「なに?」
「愛してるよ」
「……私も」
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