クロロ=ルシルフルが好きだ。私は、クロロ=ルシルフルと言う人間を愛している。彼は人殺しをいとも容易く行うし、人の物を盗みそれで生きている。そうやってでしか生きていけない。だけれど彼の声、表情、背中、全てから彼は自分の今までの行いを背負って生きていることが伝わってくる。他人にも自分にも厳しくて、滅多に笑わない、そんな彼が好きだった。
「クロロって、あんなふうに笑うんだ」
「知らなかったの?つくづくキミも可哀想な女だよね」
「そうなのかなあ」
「そうでしょ」
「愛人だよ?」
「愛人なのに、彼の笑い顔すら見たことないなんて」
「セックスも前戯なしだった」
「え?」
「え?」
「流石にそれは、引くなあ……僕でも」
「ヒソカに引かれちゃおしまいだよ、クロロも」
アジトにしている廃墟の、端の方で私はヒソカに笑いかけた。積み重ねられた瓦礫の上に腰掛けるのは服が汚れそうで嫌だったけれど、他に座るところもないしとハンカチを敷いて座る。遠く離れたところに、団員に囲まれて楽しそうに笑う彼がいた。
「今どんな気持ちなの?」
「どんなって?」
「自分の知らない好きな男の姿を見て」
「うーん、特に、だってクロロって不思議くんだし」
「ミステリアスではあるよねえ」
ヒソカが頬杖をついて笑った。彼もあの輪には入れない人間だ。元々歓迎されていないし。愛人である私は元よりあの輪には入れてもらうことすら出来ない。
「私が殺しがもっとうまかったらな」
「団員になってた?」
「うん」
抱かれなくても良いから側にいたい。彼のために死ねるのなら本望だし、優しく名前を呼ばれたい。何より、彼と同じ位置に立ってみたい。
「しんどいなあ」
それでもやっぱり泣きそうなのは彼に私が恋をしていたからだ。どんなに酷く抱かれても、愛がなくても、乱暴でも、好きだったから我慢できた。好きだったから、会いに来てくれることが嬉しかった。交わす言葉が無くても、肌と肌が触れ合うだけで涙が出るほど気持ちが良かった。
「泣かないでおくれよ、面倒じゃないか」
「ひど。……慰めてくれてもいいじゃん」
「僕、君みたいな女趣味じゃないんだよね」
わかってるよ、そう返したかったけれど涙が出てしまったからいよいよ顔を膝に突っ伏した。ヒソカの呆れたような声が頭上から聞こえたけれど、今はどうやってこの涙を止めようかがいちばん大事な事だった。
「可哀想だね、本当に、君」
ヒソカの同情している声が酷く頭に残る。クロロは私のことが好きではない。好きではないから好きにできる。どんなに乱暴にしようが、雑に扱おうが、そこにはなんの感情も思惑もない。ここに連れてこられたのだって、今晩は私の自宅まで行けそうにないからと言う理由だった気がする。
「いいじゃないか、どんな形であれ彼は君を欲してる。じやなきゃこんなとこ連れてこないだろ」
「……慰めてくれてるの」
「どうなのかな、何やってんだろ僕」
呆れたようなヒソカの声を頭上に聞きながら、私を抱くクロロの顔をそっと思い出していた。
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