明日の夕方、彼は街を出るらしい。楽しい十八年間だった、と昨日特に仲の良かった五人で集まったときに、彼は言っていた。笑顔だった。
早くして両親を亡くした彼は出会った頃はそれはもう無愛想で、気も効かないし不器用で、人との関わりがとにかく、極端に下手な男だった。そんな彼を変えたのは三つ上のレオリオと、四つ下のゴンとキルアだった。彼らは、クラピカの心の深い深いところまで潜り込んで触れ合った。素敵な友人を持ったと私に呟いた彼は、初めて会ったときからは想像もできない笑顔を浮かべていた。
私は、クラピカのクラスメイトだった。たまたま席が近くて、たまたま委員会が一緒になり、そしてたまたま家も近かった。偶然が重なり私と彼は話すようになった。それから、クラピカが通っている無料の学習塾に私も行くようになり、そこでレオリオやゴン、キルアと知り合った。
「ナマエ、じゃあまた明日」
駅のホームでクラピカはそう言った。レオリオも、ゴンも、キルアもどうしても用事があるらしくほんの少し前に明日の見送りには必ず来るから、と約束して帰ってしまった。
「あのね、クラピカ」
「ん?どうした」
「……ううん、何でもない」
言えない。クラピカに私の気持ちは言えない。私はクラピカが好きだ。心から尊敬しているし、憧れている。彼の美しい髪の毛も、横顔も、そして瞳も、全て好きだ。でもきっとこんな感情、恋とは呼ばない。愛でもない。
「じゃあね、また明日」
ホームに電車が滑り込み、クラピカが笑顔で乗り込んだ。明日彼はこの街を出てゆく。希望を胸に、志を胸に。私は息が詰まりそうになりながら彼を見送った。ああ、好きだ、好きだ。クラピカが、好き。言葉にできなかった思いは、雫となって両目からこぼれ落ちた。
「クラピカ」
私は、どうしようもなく彼が好きだ。愛してしまっている。でも許されない、こんな気持ち許されない、わかっているのに苦しい。
「どうしてクラピカは、男の子じゃないんだろう」
凹凸のある喉仏。出会った頃よりかは男らしくなった顔立ち。だけれど、少し高めの声と、華奢な身体。
彼は、女の子だ。女の子になりたい男の子だ。勿論恋愛対象は男で、女の私は土俵にすら上がることができない。私の気持ちは恋とは呼べない。こんなひどい感情、無くしてしまいたいのに消えてくれない。愛でもない、恋でもない、これはエゴだ。彼が私を愛してくれますように、と。いつまで経ってもクラピカを彼女と呼ばない私の、どうしようもない醜いエゴなのだ。
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